別行動ゆえの旅の思い出…?
「いま、台湾の話をしていたの」と微笑む妻。すると彼は目を輝かせて、私にこう言ったのです。
「そうそう! 俺さ、台湾の九份でUFOを見たんだよ!」
九份とは台北郊外にある有名な観光地で、映画『千と千尋の神隠し』のモデルとなった街とも言われています。妻と子どもに茶館に置いていかれ、彼が仕方なくひとりでお茶を飲んでいたときのこと。遠く離れた向こう側に、明らかにおかしな動きをする、光を放つ物体が飛んでいるのを発見したというのです。
「UFOだ!」
不思議な飛行物体を目の当たりにして、そう確信した彼は、ぜひ妻と子にも見せたいと願いましたが、残念ながら連絡する術がありません。
「早く帰ってきてくれ! UFO、そこにいてくれ!」
ジリジリと待つこと1時間半。
一方、長年憧れていた九份観光に、思いのほか時間を費やしてしまった妻と子。夫が機嫌を損ねてないか、恐々とした思いで茶館に帰還したところ、待っていたのは「おい、あれを見てくれ! UFOだ!」と上機嫌で窓の外を指さす夫。
「良かった。お父さん怒ってない」と安堵すると同時に、子どもは縦横無尽に飛行するその姿を見て「ええっ! 本当だ!」と大喜び。旅のほとんどを喫茶店で過ごすことになった彼も、そしてせっかく家族でいったのに、パパと別行動することになってしまった妻と子どもも、家族旅行で特別な想い出が出来た、と大満足です。
夫婦の価値観が違うからこそUFOを発見できたのだから、人生って、いったい何が功を奏するかはわかりませんね。
ところが……
UFOの正体は……
「UFOなんて見たことない!」と言う私に、
「けどホントに、UFOっているのよ!」
「おかしな飛び方してたんだよ!」
「あの動きは地球のものじゃなかったな!」
と家族が興奮気味にこたえます。しかし、UFO談義で我々がひとしきり盛り上がる中、それまでずっと黙っていた我が夫が口を開いてこう言ったのです。
「あの、それってドローンじゃないですかね」
「あっ……!」
心当たりがあって黙る我々に、我が夫はさらに続けました。
「中華系の露店ってよく、ドローンとか、ドローンの偽物が売ってますよね」
「でも、光ってたのよ?」と奥様。
「いや、ドローンも光る」とわたし。
「ドローンだったか。そうか、ドローンってのがあるんだよな」と笑う旦那様。
コラ! せっかくのいい話だったのに、なぜそこで水を差す我が夫……。
でも、UFOの正体がドローンだと判明しても、そのおかげで1時間半の待ちぼうけを食らった旦那様は退屈せず、妻と子どもは楽しく観光が出来た上に家族の笑い話がひとつ増えたと考えれば、めでたしめでたし、ということで。
Text/大泉りか
次回は<「もうその話はしたくない!」となる前に…ケンカ後の話し合いの作法>です。
夫婦生活で避けては通れない「揉め事」どう対処するかで夫婦関係の真価が問われます。話し合いで解決したい妻と、話し合いを避ける夫ではすれ違うばかり。上手な話し合いの作法を学んでみませんか。
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