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  • 2018.02.10

新婦がセフレのことを好きになってしまったきっかけはバス停の210円

結婚式を挙げた後も、パートナーとのセックスレスに苦しみ、代わりに複数のセフレと気楽で責任のない関係を続けていた大泉りかさん。しかしある日、久々に本当の意味で「大切にされること」を思い出し、恋人をよそに、セフレのことを好きになってしまいました。

セックスレス当時の日記

シャツ姿の男性が振り向くノースリーブのウェディングドレス姿の女性とキスしている画像
by Lyuda Pyenta

 セフレのいいところは、「会えばセックスが出来るところ」と「将来の責任を負わずに済むところ」ではないでしょうか。たとえ誘われても、その日セックスをする気がないのなら会うことを断ってもいいし、「セックスしてるんだから、恋人にして!」と言われたとて、「それとこれとは別なので」ときっぱりと断れる。そんな楽で気軽な関係が、セフレにはあると思います。

 というわけで、先週書いたとおり、わたしは恋人と結婚式を挙げた後も、複数のセフレと責任のない関係を続けていました。その一方で恋人(籍を入れていないので、この呼び方で統一します)とのセックスレスは、より深刻化していました。当時の記録が某SNSに残っていますが、結婚式を挙げた5日後の2009年6月5日の日記に、こう書かれています。

「そういや、まだ初夜を済ませてないんですけど。このままいくと、早くてお盆、遅いと来年の正月くらいの予感。どうすべき?w」

“w”をつけて誤魔化していますが、笑いながらもちっとも目は笑っていない自分の姿が目に浮かびます。さらに、それから約2週間後の、6月22日にはこう記されていました。

「『今週、エッチをしませんか』そんなメールしたのが週中くらい。今日は珍しく、やたらとべたべた腿とか触ってくるし手とかつないでくるし、好きだよとか言ってくるので、おー、やる気なんかなとうっすらと思い、さらには布団の上でだらだらと話していたら、ぎゅっと抱きしめられたものだから、おー、やる気なのねと体の力を抜いた瞬間 『お休み』って。

 あはは。何これ。いわゆる放置プレイってヤツですか? 泣いたりなだめたり怒ったり。なんかもう疲れたわ。無理やり立たせて跨る気力もないっつーの。歩み寄る努力とか馬鹿みたいに思える。

 その上なんか自分が情けないっていうか、あたしそんなに魅力ないかなー。別にさ、舐めてくれなくたっていいし、イカせてくれなくたっていいし、気持ちよくだってさせてくれなくてよくて、ただ、仲良くなるためにセックスをしたいのであって。なのにあっさり無視ですかと。

 仕事しようと思っていたけど、こんな気分で書ける気がしないので、今夜もビールを飲みながらDVDを見る。泣けるようなやつを借りてくればよかったなぁ」

 どうにかして恋人とのセックスレスを解消させたいと考えていた、その試行錯誤がよくわかります。けれども、どうやってもかなわないことに気が付いて絶望し、この翌日、わたしはひとつアクションを起こしました。彼に告げたのです。
「実は好きな人がいる。だからあなたとは入籍をしない。けれども、結婚式も挙げてしまったし、出来ればあなたと関係を修復させたいと考えている。だから、もう一度あなたを好きにならせてください」と。

「大切にされること」を思い出した210円

 その頃、セフレのひとりとの距離が近づきつつありました。結婚パーティーの引き出物をデザインしてくれた彼です。そう、わたしはまんまと、セフレであった彼のことが好きになってしまったのです。

 好きになったきっかけは、ひょんなことです。そのセフレの家に泊まった翌日、三軒茶屋に用事があるというので、一緒に行くことになりました。帰り道、バス停でバスを待っていたら、彼が自分の財布から小銭を取り出して、渡してきたのです。「こうして用意おくと、乗れる時にスムーズに乗れるから」と。

 その瞬間にわたしは、恋に落ちていました。たった210円です。けれどもその210円で、すっかり忘れていた、「大切にされること」を思い出したのです。

 恋人は、口ではしょっちゅう、好きだとか、かけがえがないだとか、大切だと言ってくれましたが、なにひとつ行動では示してくれませんでした。その具体的な例が、セックスレスと結婚の準備です。恋人との付き合いがあまりに長かったので麻痺していたけれども、「大切にされること」とは「大切だ」と言われることではなく、具体的な行動で示されることだと、気が付いたのです。100回好きだと言われることよりも、「はい、これ」と渡してくれた210円のほうが、ずっとわたしへの尊重が感じられる。そして世の中には、わたしへの尊重を具体的な行動で伝えてくれる人がいる。

 セフレのことを好きになってしまった。だからこそ、セフレにプレッシャーを掛けたくない気持ちがありました。だってセフレなのです。わたしが夫と別れたとしても、セフレにはその責任はない。だから「いろいろ考えた結果、わたしは一緒に暮らしている人と別れるけれども、あなたには一切関係のないことなんで、気にしないでください」と、弁明した後、恋人に前述したようなことを通告したのでした。

くるってしまった恋人

 通告した結果、恋人はくるいました。翌日、仕事に行ったと思ったら午後すぐに帰ってきて、仕事をしているわたしに向かって、突然「海が見たいから今から旅行に行こう」などと無茶なことを言い、「無理」と断ったら、何を思ったか今度は「ラブホテルに行こう」と言う。しかし、いくら自宅にいても、わたしは仕事をしているのです。けれど彼からすると、こんなにも傷ついている自分よりも、なぜ仕事を優先するのだと、余計に怒りと痛みを覚える。「こんなに俺が……」とわめきながら、くるった恋人は、半ば強姦のようにしてわたしを抱きました。

 いいか悪いかはさておき、恋人とセックスが出来たこと。これが恋人との関係修復のきっかけになるかもしれないと思いました。けれども、同時に深い怒りと悲しみが拭えませんでした。これまで、わたしが「セックスをしたい」という気持ちをどれだけ伝えても、散々無視していたのに、自分が嫉妬と焦燥に駆られたからといって、抱いてくるその自分勝手さ。そこにわたしへの愛情なんてひとつもありません。けれども、「もう一度好きにならせてください」と告げたわたしには、もう少し恋人と付き合う義務がある。

 こうして、最悪な2009年の夏が始まったのでした。


――次週へ続く


Text/大泉りか

次回は<婚約破棄寸前の彼がどんどんメンヘラに…2人きりの地獄の夜>です。
セックスレスの婚約者との生活を諦めた大泉りかさんは、とうとうセフレと恋に落ちてしまいました。最後通牒を突きつけられた恋人は、恋心を取り戻すべく旅行を持ちかけたのですが、結局、つまらない日々が延々と続くことを示唆するだけに終わってしまいます。

ライタープロフィール

大泉りか
キャバ嬢、SMショーのM女、ボディペインティングのモデルなどの経歴を経て、現在は官能小説家、ライトノベル作家。
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