新しい展開が欲しくて湘南

そんな折、ちょうど彼のマンションの更新が近づいていることを聞きました。「更新するお金あるの?」と尋ねると、「ないけど、なんとかなるんじゃない?」という答えが返ってきました。

ここで更新をしたら、今度2年間、彼が引っ越すのは難しくなります。新宿から歩いて帰れる場所での一人暮らしも十分に堪能して、気も済んでいました。むしろ、人生に新しい展開が欲しい。そう考えたわたしは、彼に一緒に住むことを提案しました。

彼の職場は横浜だったので、最初は東横線か京浜東北線沿線のどこかに住もうという話になりました。けれどもわたしは、栄えていない街で、かつ駅から遠い場所に住むのが嫌でした。そうすると、東横線なら都内、京浜東北線なら川崎辺りが希望だけれど、彼の経済状態では東横線沿線の都内で駅近は難しい。

となると、選択肢は川崎……と思ったところで、いっそ湘南まで行ってしまうのはどうかと思いつきました。田舎町に住んだことはないし、都会が好きだけれど、海の近くとなれば話は別。なんだか素敵な暮らしが待っていそうな気がします。お金のない彼と余暇を過ごすのに、海以上にもってこいの場所があるでしょうか。

いい思いつきだと思いました。こうしてわたしは30歳を手前にして、湘南へと引っ越したのでした。

――次週へ続く

Text/大泉りか