エロ写真が流出しても謝れない男
あれはちょうど、いつかのクリスマスの時期。夜9時過ぎ頃だったでしょうか。デートを終えて、恋人の家に向かっている山手線の中での出来事でした。その日、車内は通勤ラッシュまでとはいきませんが、かなり混んでいました。
恋人と並んで、つり革につかまって立っていたところ、彼が「あっ、あれ、プロレスラーの〇〇」と少し離れたところにある座席の男性を、こっそりと指さしてわたしに耳打ちしました。恐妻家として知られているそのレスラーは、ほんの少し赤い顔をしています。「どっかで飲んできた帰りなのかね」などとこそこそ噂話で盛り上がっているうちに、電車は乗り換えの駅に着き、人混みに押されてホームに降りたところで、彼は、背負っていたはずのショルダーバックがないことに気が付いたのです。
「あっ、鞄を電車の中に置き忘れてきた!」と焦った様子の彼に、なにか貴重品は入っていなかったかを確認すると「財布はズボンのポケットだし、携帯もあるから、たいしたものは」と言います。ひとまずほっとしたところで、ふと思い出して「デジカメは?」と尋ねると「鞄の中」というではないですか。それはまずい。なぜならば、そのデジカメの中には、昨晩撮った、わたしのちょいエロい写真が入っていたのです。
ちょいエロとはいっても、ハメ撮りまではいかない、下着姿くらいのソフトな写真です。そして、その頃のわたしは、男性との「絡み」と「モロの乳首」と「股間」と「尻穴」以外ならばメディア露出OKと自分ルールを決めていたので、実はそのデジカメの中の画像をネットに流出させられようが、仕事先に送られようが、マニア誌に投稿されようが、ダメージはない、というのが正直なところだったのですが、それでも自分が「ここで脱ぐ」と決めた場所で脱ぐのと、意に反しての流出とでは話が違います。
「えっ、わたしの写真が入ってるやつじゃん!」と抗議の声をあげたところ、彼から返ってきたのは「俺だって悪気があったわけじゃないんだから、そうやって責めるなよ」という言葉だったのでした。
責めているつもりはありませんでした。けれども、まずは謝ってほしいという思いもありました。だって、まがりなりにも嫁入り前の女の子の下着姿の写真ですよ。うっかり失くしていいものじゃない。だからまずはわたしに謝って、そして、駅員に頼んで探してもらう、という行動を取るのが筋のはずです。失くしたことは仕方がないけど、とにかくわたしに謝罪すべき。謝るくらい簡単なことなのに、なぜそれが出来ないのか。
そう問いただすと「だから責めるなよ」と返ってきて延々と同じ会話のくりかえし。「悪気なくしたことだから謝らなくていい」と考えているのか、それとも、年下の女に叱られてプライドを傷つけられたことに腹を立てているのか、はたまた、謝らなくてもわたしが折れれば解決すると考えているのか……。
結局、デジカメの入ったバッグは後日、無事に見つかりましたが、それに懲りて以来、わたしは下着姿であっても写真を撮らせるのは、やめることにしたのでした。なぜ彼が謝らなかったのか、謝れなかったのか、いまだにわかりませんが、息子は絶対に謝れる男に育てるぞ。
Text/大泉りか
次回は<子はかすがい?起爆剤?「母と父」になってめちゃくちゃ喧嘩が増えました>です。
「子はかすがい」と申しますが、大泉りかさん夫婦は、子供が生まれて喧嘩が増えたそう。夫婦喧嘩の原因はやっぱり家事と育児の分担。この前も、離乳食を始めてもあまり食べてくれないことで悩んでいた2人の、怒りの導火線に火がついて……。解決法はいったい何なのでしょう。
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