自分を主張することが「関係構築」の第一歩

それは「東京では肉じゃがも、豚肉なんですよね」という一言でした。

「カレーも豚肉です。なんならすき焼きが鶏肉のことだってあります」と返すと店員さんは笑っていましたが、そうなんです。その神戸出身の男性と一緒に住んでいた頃、わたしがスーパーで買う肉は牛肉がメインでした。
というのも、その彼が「豚肉だとバカにされている気分になる」と大げさなことを言うから、肉について、まだこわだりの薄いわたしが譲り、牛肉をメインに使うようになったのですが、最初はよくとも、これが地味にストレスになっていった。

というのも、そもそも、東京で売っている美味しい牛肉はべらぼうに高いし、高くない牛肉は味がかすかすで、美味しくない。日常的に高い牛肉が買えるくらいに金銭的に潤った生活をしているわけじゃないから「豚肉だったら、もっと安くて美味しい肉が食べられるのにな……」と毎度、食事の度に思って過ごさなくてはならない。
しかも、「たまにはいいだろう」と思って豚肉や鶏肉を使って料理をすると、彼は本当にバカにでもされたようなテンションで食卓に向かうもんだから、「そんなに嫌な顔をされるなら」と再びこっちが譲ることになってしまう。たかが肉、されど肉。あの頃はスーパーに行って献立を考えるのが本当にツラかった。

その神戸の彼の前に、名古屋出身の男性と付き合っていたのですが、その彼の主張する「味噌は赤味噌」は即座に却下し、あくまでもスーパーで売っている味噌を使い続けた記憶があります。
神戸の彼のほうが、名古屋の彼よりも好きの熱量が大きかったのか、というとそういうわけではなく、名古屋の彼は「赤だしは寿司の時に飲むものです」と言い切れば納得してくれる人で、一方、神戸の彼は「豚肉でカレー作ろうかな」というと黙り込んだり、ムッとしたりと態度に出すので、それを避けたかっただけ。

「喧嘩を避けたい」と思うわたしの気持ちこそが、自分を追い詰めることになってしまったのではないか、と思うのです。
「仕方ないこと」と諦めずに、きちんと自分を主張すること。出来る人には簡単に出来ることであっても、身について立場からすると、なかなか難しいことです。
だからこそ、ことさらに気を付けて生きようと思う次第であります。

しかし、東京で暮らすのに「豚肉を出されるとバカにされた気分」なんて言ってたら、生きにくいだろうなぁ。

Text/大泉りか

初出:2016.10.08

次回は <妊婦になったらセックスできない?婚活・妊活より大切なのは「性活」だった>です。
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