啓発されて「キラキラした目」

けっこう昔にフリーのライターをしている男性と付き合っていたことがある。その男性は、宗教だとか風俗だとかドヤ街だとかに潜入取材をする仕事を多くしていた。(そして今もしている)のだけれど、いつだったか自己啓発セミナーに数日間、潜入して来たことがあった。
帰ってきて会って、まず思ったのは「妙に目がキラキラしている」ということで、思わず「目がキラキラしてる!啓発されてる!!!」と大爆笑したら「えっ、そんなことないと思うんですけど」と、ものすごく、嫌そうな顔をされた。
その後、詳しい話を聞いたら、さすがは潜入取材に慣れているだけあって、ものすごく冷静かつ客観的に、そこに参加する人々のパーソナリティーや変化の様子、人を啓発させるシステムについて、見てきたものを説明してくれた。

「あー、よかった。君は啓発されてないね」と、感想を述べたら「当たり前ですよ、プロですよ」と返していたけれど、やっぱり目はキラキラしていた。それくらい、自己啓発って力があるんだと思う。本人もきっと楽になると思う。けれど、周囲からはかなりの確率で「おかしなことになっている」と認定される。これは事実だと思う。

本人が生きやすくなるなら、自己啓発セミナーでもなんでも行ってくれて構わない。アラフォーに差し掛かり、「こんなはずじゃなかった」とちっとも満足いかない自分と、その現状に愕然した時、何かを学ぶという選択肢を取ることで、その不満足から抜け出して、生きやすくなるのはきっと本人にとってはいいことだろう。しかし、聞きたいのは、そういう人はなぜ、突然上目線でアドバイスしたがりババアになるのか。

「自分が得た気づきを、人に伝えたい」ということだとは思うんだけど、だったら、自己啓発セミナーで「上から目線にならないように、自分の気づきを面白く伝える方法」とかを教えたほうがいい。

Text/大泉りか

次回は《「年下の女とヤれると信じるオッサン」は私に女を自覚させた》です。

初出:2016.08.06