自腹のコンビにサンドイッチと、泣き喘ぐ母

 巣鴨警察署へと向かうワンボックスカーの中で、わたしは「失敗した」と後悔をしていました。
制服を着ていたことにです。

  というのも、わたしが通っていた学校は都立高校で制服はなく、わたしも入学当時は私服で通っていたのですが、その私服が派手だとか露出が高いとかで、先生に呼び出されて指導を受け、学内では私服の上に体育用のジャージを羽織るという手段で凌いでいました。

  ところが、4月も後半となり、外の気温はすっかり初夏。
冷房設備のない学内でジャージを着こむのは暑いということで、その頃は、適当なチェックのプリーツスカートに私立高校の友達から貰った校章付きのベスト、ラルフローレンの白いシャツに、やはり他校のスクールバックといういで立ちで普段過ごすことが多くなっていました。
そして、その日に限ってわたしは制服を身に着けていたのです。

 もうひとつの後悔は、誕生日のことです。
というのも、それから10日もすれば、わたしは18歳の誕生日を迎えることになっていました。18歳ならば、もしかして補導はされなかったかもしれない……

 しかし、いくら“If”を考えても時すでに遅し。
わたしは巣鴨警察署の中にある小さな個室に入れられて、事情聴取を受けることになりました。

 名前、住所、学校名から始まり、「デートクラブの中には、何人くらい女のコがいたか」「そのうち、高校生はどれくらいいるか」といった質問をされたので、それぞれ適当に返していきました。
しかし、「デートクラブにはどれくらいの頻度で出入るしているか」という質問には、「今日が初めてです。友達と遊ぶ待ち合わせ場所に、あそこを指定されたんです」としゃあしゃあと嘘を答えました。
バレバレだったと思うのですが、そこは特に突っ込まれることはありませんでした。

 車に連行される際に、服装が乱れたので、スカートの中に手をつっこんでシャツを引っ張って直そうとすると、警察官の女性には「人前で、そんなことしないの、みっともない!」と叱られましたが、男性の警察官は優しくて「ほら、これでも食べて落ち着いて」とコンビニのサンドイッチを手渡してくれました。

 調子に乗って「かつ丼じゃないんですか?」と返すと「それはもっと罪が重い人にね。でも食べたいからって犯罪犯しちゃダメだよ。それにね、これ、ポケットマネーなんだからね!」と男性警官は気さくな口調で、まったく「怖い」ということはありませんでした。

 しかし、調書を取り終えたところで、「ご両親と教師とどっちか、引き取りに来てもらうから、連絡先を教えなさい」と詰められたのは、困ってしまいました。
担任教師はあまり理解のあるタイプではありませんでしたし、母親は性的に潔癖なタイプです。
けれど、どちらかを選ばないと返してもらえないということで、しぶしぶ自宅の電話番号を教えて母親に迎えに来てもらうことになりましたが、そこからが地獄でした。

 親戚の叔母さんがたまたま上京していたらしく、ふたりで来てくれたのですが、母親はひたすら泣き喚き、あげく、「汚らわしい! 気持ちが悪い!!!」と道端で餌付き始めましたが、しかし、胃の内容物が出てくることはありませんでした。

  わたしは(自分で迷惑を掛けておきながらも)「そういう大げさな人なんだよなぁ」と冷ややかに、げえげえと出もしない胃の内容物を、必死に吐きだそうとしている母親を見つめ、若干、冷静な叔母は場をなんとか収めようとして、 「ほら、このコは好奇心旺盛なコだからね、なんでも見たかったんでしょ。ね、なんで、デートクラブなんてところに行ったの?」と問うてきたので、「うーん、ほら、わたし、将来は出版に進みたいから。取材みたいな?」と返すと、叔母は笑い、わたしは初夏の夜空を見つめながら、「あー、わたしの青春は、今日で一区切りついたのかもしれない」とセンチメンタルな気分になり、母はひたすらに、P’PARCOの横の植え込みにエア―ゲロを吐き続けていました。

 その日を境に、デートクラブには、一切足を運ばなくなり、それから10日も経たないうちに、わたしは18歳になったのです。

・・・次回は《キャバクラの面接に受かった女子大生が変えようとしなかった自分》をお送りします。

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Text/大泉りか