どうしてぬくもりを求めてしまうのか

 わたしは、小学校1年生の時から個室を与えられて、ひとりでベッドで寝ていました。
三才年下の弟や五才年下の妹は、両親と一緒に和室に布団を敷いて寝ていたので、いま思えば、なんでわたしだけ隔離されていたのかわかりませんが、家族旅行や友達の家に泊まりに行って雑魚寝したり以外は、あまり人と一緒に寝るという経験がなかった。
だから、人とくっついて寝る気持ちよさに気が付いたのは、その時でした。

 それ以降、わたしは完全に、男性と寝る時は、くっついて寝ることを求めるようになりました。
「腕枕して」「抱き合って眠りたい」「後ろから抱きしめて」と。
勿論のこと、中には、「苦手なんだよね」「くっつくと熱い」「気になって寝れない」という男性もいましたが、その場合は、「なにそれ。嫌がるって、ちょっと愛が足りないんじゃない?」と言って口喧嘩になったりもしていた。

 喧嘩になってまで、ぬくもりを求めるのはなぜでしょうか。
それが愛っぽいからでしょうか。
しかし、愛を感じるために、くっついて寝ることには、息苦しさを伴います。
息苦しさを感じているというのに、なぜ求めてしまうのか。
そもそも、愛とは身体の密着度で測れるものなのか――。

 考えることは、素晴らしいことです。
考えて自分の心を整理をしていくうちに、いつしか、人の快眠を妨げなくとも済むくらいには“くっついて寝たい病”は回復しました。
といっても、根本的なぬくもり欲が無くなったわけではありません。
ゆえに足を犬に絡め、それが無理ならば夫の足に絡める。
人様に息苦しい思いをさせずに、自分も息苦しい思いをせずに、落としどころを見つけた結果、この形へと収まったのですが、たかだかどう眠るかくらいで、欲と気遣いとのバランスを取って形作っていかなくてはいけない。
“愛”に付き纏う“欲”って、本当に面倒くさい。

Text/大泉りか