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  • 2017.07.14

不倫で病んだときに必要なのは「欲望の解体」だ/米代恭×ぱぷりこ対談

『あげくの果てのカノン』3巻の発売を記念して、著者の米代恭さんが、恋愛で悩む女性たちの心理を徹底的に掘り下げた新刊『なぜ幸せな恋愛・結婚につながらないのか 18の妖怪女子ウォッチ』が話題沸騰中のぱぷりこさんと徹底対談です!

米代さんとぱぷりこさんの自画像

 「恋は盲目」の言葉どおりに高校時代の先輩(既婚)を偏愛しつづけるメンヘラ女子・かのんの切ない恋の変遷と同時に世界の危機の行く末を描く、新感覚不倫×SFマンガ『あげくの果てのカノン』(小学館)。
徹底的に掘り下げた心理描写に共感の嵐がやまない同作品の3巻発売を記念して、同じく、恋愛で悩む女性たちの心理を徹底的に掘り下げた新刊『なぜ幸せな恋愛・結婚につながらないのか 18の妖怪女子ウォッチ』が話題沸騰の外資系OL・ぱぷりこさんと、『カノン』著者の米代恭さんが、徹底対談。
不倫やセカンド女子沼に悩む女子必読の前後編です。

恋愛・結婚の幻想を破壊するマンガが増えている

あげくの果てのカノン3巻の書影
©米代恭/小学館 月刊!スピリッツ連載中

――米代さんとぱぷりこさん、今日出会う前からお互いにファンだったとか。

ブログ「妖怪男ウォッチ」やお焚き上げnote、いつも楽しみに読んでます。
私はマンガのキャラクターを作るときに、「こういう行動をする人の心理ってどういうことなんだろう」というのを考え抜くようにしていて。『あげくの果てのカノン』の準備をしているときにぱぷりこさんのことを知り、ずっと読んでいました。「こういうタイプの女の子はこういう風に思う」というのを、ぱぷりこさんはものすごく根源的なところまで解体している。そのやり方に共感しました。


光栄です! 私は、普段から恋愛コンテンツを摂取するよう心掛けてるんですけど、『あげくの果てのカノン』については、1巻発売時に周りがすすめてくれたんです。恋愛相談や編集者さんとの会話の中でも毎回話題に上がって。セフレ沼や不倫沼にハマってる人たちが「共感しすぎてヤバい」と言ってましたよ。
『あなたのことはそれほど』(祥伝社)や『1122』(講談社)もそうですけど、恋愛や結婚へのゆるふわ幻想を破壊していく風潮は非常にうれしいと思ってます(笑)。
米代恭『あげくの果てのカノン』1巻画像
©米代恭/小学館 月刊!スピリッツ連載中
ありがとうございます。「SFと不倫」というテーマは、担当編集さんから提案されたもので、それをどう描くか悩んだ結果生まれたのが『あげくの果てのカノン』です。一人の先輩に一途な片思いをしている女の子・かのんが、先輩が既婚者であり、そのうえ地球外生命体と戦うヒーローだったために、恋心と地球の危機のはざまで葛藤していくという。
ぱぷりこさんは『カノン』を読んで、どう思いましたか?


地球の危機そっちのけで先輩に熱を上げるかのんのぶっとびぶりは、見てて楽しいですよ。私の新刊『なぜ幸せな恋愛・結婚につながらないのか 18の妖怪女ウォッチ』であてはめると、まず第一に「片思い女子」ですよね。どんな人も「片思い女子」から始まって、生身の人間とぶつかって、思い通りにならず、成長していくもの。
私自身、女子校育ちでしたし、10代のころは「恋愛はこういうふうに進んで、最終的にはハッピーエンド」というフォーマットを信じていた。かのんは、生身の相手を見るよりも自分の中にある相手像に恋をする「妄想女子」と、相手を信仰して崇め奉る「信者女子」も入っていて、思い込みが強固なものになっている。

ぱぷりこさん著書より女子分類チャート
妖怪女子分類チャート
©ぱぷりこ/『なぜ幸せな恋愛・結婚につながらないのか 18の妖怪女子ウォッチ』文藝春秋
でも、『カノン』ではきちんと、その幻想を崩されていくじゃないですか。
2巻で、片思い=信仰の対象である境先輩の妻・初穂が主人公の前に現れて、そして3巻以降は、先輩本人も考えていることを語り出す。あれが良かったですね。だって、かのんの見ているものと先輩の見ているものって、全然違うから。

米代恭『あげくの果てのカノン』2巻画像
©米代恭/小学館 月刊!スピリッツ連載中

現実の「かのん」は、病院エンドになりかねない

ぱぷりこさんに相談してくる女子にも、かのんのような人はいますか?

いますいます。相手を信仰しているタイプは、どんなに話を聞いても、相手のことが全く見えてこないんですよね。
「彼は私のことをすごく大事にしてくれてる!」「こういうところが素敵!」って話をえんえんとしてくるんだけど、こちらからすると、「いや、それはモラハラでは……?」というような事案。
あまりにも相手が見えないので実際に会ってみると、目が全然笑ってなくて「こいつって馬鹿だよなー」と見下していたりするんですが、彼女側は「愛あるいじり」だとポジティブ変換していたり……。


(笑)。私は1巻の時点で境先輩のことを「こいつは絶対に性格が悪い」と思いながら描こうとしていました。
でも、担当編集さんとはかなり対立したんです。「そんなキャラクター、読者もかのんも好きになれない」「米代さんはそういう人、好きなの?」と言われたんです。それはたしかにその通りだったんですよね。
1巻の段階で境先輩の描写をネガティブにしていたら、読者も受け入れてくれなかっただろうと感じます。3巻まで描いて初めて、私と担当さんの二人ともが「今だったら境の裏側が描けるかも」と思えた。

米代恭『あげくの果てのカノン』3巻画像
©米代恭/小学館 月刊!スピリッツ連載中
それでも先輩は、かのんにとって神じゃないですか。だけど、かのんはちゃんと先輩に思ったことを伝えて、怒れるようになったのがえらい。

そうなんですよね。エンタメだしフィクションなので、読者の方がカタルシスを得るためにも、主人公には成長してもらわないと……と思って。

ふつうは神には怒れないですから。現実の「信者」女子は、神に捨てられる瞬間になっても「私が悪いのかな……」と呆然と立ち尽くして、最終的には病んで病院に行くことが多いんです。かのんのような子は、超少数派だと思います。最近来た相談でも、「彼氏が3人とも妖怪男で、3回とも入院しました」っていうのがあって。「ノー」って怒れる人は本当に少ない。だからこそ、『カノン』、いろんな人に読んでほしいんですよね。

不倫のお焚き上げ、結構来てます

――いわゆる「文春砲」の盛り上がりや『あなそれ』などのヒットを通じて、世間では「不倫」が話題にのぼることも増えてきたと感じます。お二人の周辺ではいかがですか?

私は取材をかねてお話を聞かせてもらうことはあります。でも、周りの友人にはいないような……。アシスタントの女の子が「アラサーはほぼ不倫か、セカンド」と言ってましたけど(笑)。
そういえばこの間取材の一環でキャバクラに行ったら、ハイスぺ男性と絶賛不倫している子がいて。


――キャバ嬢の不倫話をお店で教えてもらえる機会はなかなかない(笑)。

その子も、最初は「この人何なの?」と思ってたんだけど、いきなり海外に誘われて、どうせ口だけだろうと思ってOKしたら翌日本当にパスポートの番号を訊かれて……という流れで、あれよあれよという間にそういう関係になってしまったそうです。
奥さんのことは、あえて考えないようにしていると言ってましたね。「どうせ別れて私と結婚したとしても、私みたいな不倫相手をまた作るだろうから」って。20代前半の子です。


会った翌日にパスポート番号を聞くっていうのは、「港区男子」あるあるですね。自分では割り切ってるつもりでも毒素をためていく子は多いので気を付けてほしい。

ぱぷりこ『なぜ幸せな恋愛・結婚につながらないのか 18の妖怪女子ウォッチ』表紙
©ぱぷりこ/『なぜ幸せな恋愛・結婚につながらないのか 18の妖怪女子ウォッチ』文藝春秋
そうですね。15分お話ししただけでも、「本当に割り切れてるのかな」とは心配になりました。ぱぷりこさんは周りからお話聞くことありますか?

多少は。
不倫していることって、直接の友達にはあんまり言わないですよね。だいたいは「不倫は良くないよ」となりますから、その段階で言わなくなってしまうことが多い。
私の場合はだいたいの話は言われても引かないし、倫理や社会常識を持ち出して「不倫はダメ!」とは言わないので、話してくれる方が比較的多いのかなと思います。


お焚き上げnote(※ぱぷりこさんが行っている恋愛相談)でも来てますか?

 定期的に来ます!でも、「非公開」希望で相談が来るので、noteでオープンにはなってないものが多いんです。匿名なんだけど、ばれたらどうしよう……と思っているようで。
私からすると、本当にたくさん相談をいただいているし、だいたい同じような話なので、ばれないよと言いたいんですけれど(笑)。

キラキラ粉飾の後ろに、身勝手な欲望がある

そういう方には、どういったお焚き上げをするんですか?

不倫以外の相談と変わらないですよ。
相談内容から、本人が本当に望んでいることを見つけ出して言語化し、呪いを解体して、伝える。
公開しているお焚き上げnoteを見てもらってもわかると思うんですけれど、みんな、相談内容にキラキラ粉飾がめちゃくちゃ多いんですよ。その粉飾の後ろには、それぞれの身勝手な欲望がひそんでいる。
例えば「自分の自信のなさを埋めたい」とか「親を見返してやりたい」とか「自分が実現できなかったことを男の力を借りて実現したい」とか。そういう自分のストレートな欲望を見たくないから、みんなきれいな言葉で粉飾するんですよね。


わかります。

ただ、こちらが提示したからといって、最終的にどうするか決めるのは相談者の方ご本人なので。
『カノン』の最新話で、「人は合理性だけでは生きていけない」というセリフがあったじゃないですか。あれは、私もいつも考えてます。
私がブログやnoteで書いていることって、いわゆる「合理的な意見」じゃないですか。でも、恋愛をしているときはまっしぐらになるもんですから。


そういう人を見ていて、「馬鹿だなあ」と思ったりしますか?

いや。「しょうがないよね、恋愛してるもんね」って思いますね。私も私で、そういうときはありましたから。だからかのんにも、どんどん突っ走ってほしいですね。


つづく

Text/常盤川ゆめ

次回は<SNS時代に自分の「メンヘラ」と向き合うには?/米代恭×ぱぷりこ対談>です。
『あげくの果てのカノン』著者・米代恭さんと『なぜ幸せな恋愛・結婚につながらないのか』著者・ぱぷりこさんの対談後編!自分の「メンヘラ」と向き合って本当の自分の気持ちと向かい合うための方法とは?

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