(1)安野モヨコ『ハッピー・マニア』

 初めて読んだ時「この「シゲカヨ」というのはほんとダメな女だな〜」と思いつつ、めちゃくちゃ面白くて大笑いしました。

 彼女が恋する男たちは、かなりデフォルメされているけど、どいつもこいつもモデルがいそうで、「きっと安野先生がアシスタントさんと恋バナとかして、それが作品になるんだろうな〜」などと勝手な妄想をするのも楽しかった。

 女に好きだの愛してるだの言っておきながら、その実自分のことが大好きな男たちと、そういうだめんずになぜか惹かれてしまう女たちの関係は「わたしにも似たようなことがありましてね……」という告白を数多の女たちから引き出しました。

 ……が、時は流れ、今の若者の中には、シゲカヨを本気で非難する人が出てきています。嘘じゃありません。ソースは私です。
大学の授業で本作を紹介したら、無計画で無節操なシゲカヨの恋愛が「何も考えてなさすぎて、ムカつく」とのコメントが。マジですか。平成キッズはシビアだな……。

 恋愛のことしか考えずに生きる彼女の自由さと逞しさが眩しくはないのか。わたしはいまだに眩しいぞ。

 こうしたジェネレーションギャップが教えてくれるのは、本作には、昭和生まれの女たちが持っていた打算なき恋愛欲が詰まっているということ。不景気まっただ中の非正規雇用ライフでも全力で恋していたシゲカヨの魂を受け継ぐことができるのは、昭和生まれの女しかいない。
再読せよ、思い出せ、この闘魂を。