大学のころ、ロシア語を習っていました。
クラスで学んだ中身はほとんど忘れてしまいましたが、でも、先生がウォッカが大好きだったことはよく覚えています。ことあるたびに、ウォッカの魅力を語るのです。
「ロシアでは、ウォッカを冷蔵庫ではなく冷凍庫に入れる。あるいは積もった雪の中につっこんでおく。そうすると、ビンには氷がびっしりと付き、中身はなぜかトロトロになる。部屋をあったかくして、ビンの氷をポロポロはずしながら、そのとろみのあるウォッカをきゅーっと飲むと、これが幸せなんだよね……」
僕たちは極めて勤勉で従順な生徒だったので、先生に言われたことをきちんと復習しました。それも、何度も何度も。
いやあ酔った酔った。飲み慣れてない学生たちがよりによってウォッカをストレートでがぶ飲みするんだから、そりゃまあ、ひどいもんです。毎週のように誰かの下宿先でみんなでつぶれ、気がつけば昼、みたいなことを繰り返しました。
そんな中にひとり女の子がいました。僕は頻繁に彼女のところに泊まりに(酔いつぶれに)行き、朝にそのまま一緒に通学することもしばしば。ほんとうに何もない関係だったので、こそこそするという発想がなかったんです。
やがてロシア語への情熱を失い、ウォッカへの愛も冷めると、自然とその子の家には行かなくなり、なんとなくその子とも疎遠になったのですが、しばらくして大学で変な噂が流れはじめました。
曰く、「ササキとあの子は別れたらしい」。
いやいや、そもそも付き合ってないから! っていうか俺、ズブズブでキトキトの童貞だし!
僕はともかく彼女がとても困惑していたので、懸命に否定してまわりました。すると今度は「ササキはひどい遊び人だ、あの子の気持ちを完全に否定し、心なく捨てた」という進化した噂が流れはじめる事態に。親友に呼び出されて説教されたりもしました。
ああ、冤罪被害者が虚偽の自白をする心理ってこれなのか……と思いながら、友人の説教に「そうさ、やりまくって捨ててやったさ、それの何が悪い」と開き直って見せたのを覚えています。
いま思うと、別に彼女のことは嫌いじゃなかったし、彼女も僕のことをそれほど嫌ってはいなかったと思うから、そのまま否定せずに「ヨリを戻した!」ということにしてほんとに付き合っちゃえばよかったんだな。もったいないことした。
さて、そんな僕の怨霊あふれる思い出はさておき、今週も「お酒にまつわる恋愛エピソード」の投稿が届いておりますので、読んでいきたいと思います。