蓋が開いたキッカケ

私は中学に入ると急に背が伸びて、中1で165センチあったんですね。それで母が「もう肉体的に勝てない」と思ったらしく、暴力がなくなったんです。

背が伸びてよかったねえ…!!!!

ほんと命拾いしました(笑)

自分の親が毒親だと認めるのは難しいけど、Mさんはそれだけの暴力を受けても、彼に話すまで母が毒親だと気づかなかったのかな?

うーん…やっぱり虐待の記憶を思い出すのは辛いじゃないですか。だからなるべく見ないようにして、封印していたところはあります。

辛すぎる記憶を封印して、無かったことにする子どもは多いよね。でも決して無くなるわけじゃないんだけど。過去を思い出して彼に話そうと思ったのは、キッカケがあったの?

私は東京生まれでずっと実家暮らしだったんですね。大学時代は部活が忙しくて、入社してからは仕事が忙しくて、あまり家にいなかったんですけど。それが2年前、会社の研修で3ヶ月イギリスに留学して、初めて母親から完全に離れたんですよ。

遠い異国で距離も時差もあるし。

そう、その時に「なんだこの解放感は…?!!」とびっくりしたんです。しょうもないけど、たとえば床に牛乳をこぼしても誰にも怒られないじゃないですか。

「失敗したらお母さんに怒られる」という恐怖心や緊張感が、心の底にずっと残ってたんだね。

母親から完全に離れたことで、そのことに気づいたんです。知り合いもいない異国で、寂しさとかホームシックとか全然なくて「自由だー!!!」って。

親と物理的に距離を置くことで、初めて客観的に気づくことは多いと思う。

イギリスで高熱を出して寝込んだんですよ。その時も「ああ…親がいなくて本当に良かった」と思って。普通は心細くて、家に帰りたいとか思うじゃないですか?

普通とは真逆の感情を抱く自分に気づいた。

そう、帰国する前も家に帰るのがイヤすぎて、体が動かなくなって嘔吐したんですよ。 それで「私は自分を虐待した母を心から憎んでいる」と気づいたんです。それを認めたことで蓋が開いたというか、過去の記憶がよみがえって、怒りや悲しみやみじめさや悔しさが溢れ出してきて。

蓋が開くと最初はすごく混乱するよね。

ものすごく混乱しました。日本に帰った後も、自分の気持ちを抑えられなくて、家族に耐えられなくなって、体調も崩してしまって。それで実家を出て一人暮らしを始めた1ヶ月後に、母のガンが見つかったんです。