恋愛に翻弄されながらも「してあげてる」を感じさせない!

なぜ彼がここまで受け身なのにステキな王子様たりえるのか?
それは、彼の受け身があまりにも徹底的だからです。

好きな人のために人生を捧げてはいるのですが、「自称」ご奉仕系男子にありがちな「〜してあげてる」感じが全然しない!
決して見返りを求めていないワケではないのだけれど、その匂いをさせないところが、彼のすごいところです。

そもそも、サエコさんへの片想いは、爽太の一目惚れからスタートしていますし、ショコラティエになろうと決めたのも爽太自身です。
誰かのために生きてはいるけど、人生の選択を誰かのせいにはしない、それが爽太という王子様のステキなところ。

受け身のプロだからこそ受け入れられる、セフレとの友情関係

爽太がモデルの「エレナ」と知り合ってすぐセフレになるという展開も、やはり受け身のプロと思わずにはいられません。
ふつうであれば「え!あんなにサエコさんのこと好きとか言っておきながらお前マジか!」となりそうなものですが、彼の受動性からすると「まぁ、爽太だったら受け入れるだろうな」と思ってしまいます。

エレナも爽太と同じように苦しい片想いをしている仲間なのだと教えられ
「あたしずっとその人を想って一生誰とも抱き合わないで生きていかなきゃだめなの? 誰とも触れ合わないでずっと一人でいかなきゃいけないのかな…」
と訊かれ、お互い好きな人が変わらないからこそセックスができるのだと言われ、それを受け入れてしまう爽太のブレなさよ。
チョコレートが大好きとか、誰かと体を重ねたいとか、誰かの(とくに女の!)欲望を引き受けられることは、爽太の美点なのです。

そうやって誰かの欲望を引き受けているうちに、爽太の人生は彼自身にも予測のつかない方向へと流されてゆきます。それを主体性がない、考えが足りないと責めることはたやすい。
しかし逆に、自分が何をすべきか、自分に何が向いているかを他人との関係性の中で決めていく、という態度もアリなのではないでしょうか。

少なくとも爽太は、実家がたまたまケーキ屋さんだったことと、たまたま好きになった相手が無類のチョコレート好だったということからショコラティエになるという道を選びましたが、それでちゃんと成功しています。
彼の「たまたま」を生かす力は、案外侮れません。

他者の欲望に敏感になれることが流され王子の魅力

「海賊王に俺はなる!」といったどデカい目標を持った男子は、確かに頼もしいし、ワイルドでいいなとも感じますが、目標がデカすぎて、他者のちょっとした欲望には鈍感そう。
その点、爽太のキメ細やかな心配りは、まるで彼の作るチョコレートのように丁寧でデリケート。
恋愛に翻弄されて生きる爽太は、一見軟弱そうに見えますが、強いリーダーシップを発揮することだけが王子様の条件ではないことを教えてくれているようにも思えます。

Text/トミヤマユキコ

初出:2014.02.14