少女マンガに登場するステキな王子様に胸をときめかせていたあの頃——いつか自分も恋をしたい。そんな風に思いながら、イイ男とは何か、どんなモテテクが効果的なのか、少女マンガを使ってお勉強していたという人も少なくないハズ。
時は流れ大人になっても、少女マンガによって植え付けられた恋愛観や理想の王子様像は、そう簡単に劣化するものではありません。むしろ王子様の亡霊に取り憑かれて、リアルな恋愛がしょぼく思える人もいたり? この連載では、新旧さまざまなマンガを読みながら、少女マンガにおける王子様像について考えていきます。
第7回:素直に「好き」「不安」と伝える!
新時代の王子様『俺物語!!』
わたしの胸キュン供給源であった『俺物語!!』が終わってしまい、完全に『俺』ロスです。
すでに実写版も公開され(鈴木亮平サイコーでしたね)、続編やスピンオフの噂もいまのところ聞かないし、この先どうやって生きていけばいいんだ。
人生経験積み過ぎて、ちょっとやそっとのことでは納得しないアラフォー女をきゅんきゅんさせ、なんだったら泣かせてしまうマンガなんて、そうあるもんじゃないのに!
キスより先を当たり前のように描く少女マンガがたくさんある中で、本作はゴリラみたいにデカくて体力自慢の「剛田猛男」と、お菓子作りが得意なほんわかヒロイン「大和凛子」の高校生カップルを、あくまで爽やかに、どこまでもピュアに描きました。しかも、それがむかしの少女マンガに退行しただけの「先祖返り」ではなかったところがたいへん素晴らしいと思います。
爽やか&ピュアなのに先祖返りではないとは、一体どういうことか?
それは、初めての恋愛にアタフタする男子を、心理面もふくめて丁寧に描いたところが今までありそうでなかった、というのがわたしの見立てです。
満員電車で痴漢に遭った凛子をたまたま助けた猛男は、そのことがきっかけで自分が惚れられるなんて1ミリも思っていません。一緒にいた自分の友だち「砂川」の方がイケメンだしモテるので、凛子も当然砂川に行くだろうと考えたのです。このように、猛男は自分を「恋愛できない方の人間」だと思い込んでいます。ですから、いざ凛子と付き合いはじめても、恋愛素人すぎて、彼女の気持ちに気づいてあげることができません。
これが、「好きな男子がなに考えてるのかわからなくて戸惑うヒロイン」という設定であれば、よくある少女マンガなのですが、戸惑ってるのがまさかのゴリラ男子・猛男であるという「男女反転」ぶりがたまらない。
鈍感で、ガサツで、ニブチンの猛男が、懸命に凛子を愛そうとしている。お勉強が苦手な猛男が、一生懸命に考えて、知恵を絞って、彼女と付き合ってゆく様子は、健気のひとこと。カップルが成立してからもなお、気を抜いていないというか、ずっと片想いっぽいというか…うう、猛男~! 付き合ってくれ~!
「大和 何してるかな/バルセロナはまだ昼だな/大和 笑ってるか/離れていても 大和の笑顔がいつも心の中にいる/オレを強くしてくれる/オレも 大和をそんな気持ちにできているか?/離れていても大和の笑顔を守れているか?/大和にとって/そんな男でいられているか?」
……これは、バルセロナと日本で遠距離恋愛中の猛男のモノローグです。
恋する女子の胸に去来する、喜びや悲しみ、不安といった感情を、実は男子だって感じているんだ、というごく当たり前のことを、「男の沽券」とか「要らぬプライド」で覆い隠してしまうのではなく、素直に「好きだ!」「不安だ!」と語れる猛男。彼のような男こそ、きわめて現代的な「新時代の王子様」と言えるのではないでしょうか。
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