相性のいい人と付き合うのが幸せ?
「おれたち相性いいよね」
セックスの後に男が言う。「えー、そうかなぁ」とこたえると、「うん、だって気持ちよかったでしょ? 話してても楽しいし」と彼が言う。そういうことがあるたびに、相性って何だろうなぁと思っていた。たしかにセックスは気持ちいいし、話してても楽しいけれど、「相性」と言われるとなんだかしっくりこない。
友人に話すと、「まだ本当に相性のいい人に出会ってないのでは?」と言われた。そうなのかもしれない。たとえば趣味が同じでいつも話が盛り上がって、掃除の頻度も同じだから同居してもストレスフリーで、ベストなタイミングでセックスに誘ってくれて、ちょうどいいリズムでピストンしてくれる男に、私は出会っていないから、相性というものがわからないのかもしれない。
でも、そんなに相性のいい男に出会いたいだろうか? と考えると、別にそうでもない。実際、そこまでではないにせよ、自分と性格や考え方が似ていて、話も盛り上がって、気遣いも不要で、おまけに容姿も好みな人といい感じになったことがあるが、「自分と似たような人とセックスしても仕方ないな」と思い、ふみこんだ関係には至らなかった。
客観的に考えたら、そういう人と恋愛をすれば幸せなのかもしれない。とは思いつつ、間が悪い男とか、金遣いが破滅的な男とか、ポエムばかりのバンドマンとかとばかり恋愛をしてしまう。相性は悪いし、相手の意図が分からないし、イライラする。でも、ドキドキするし、めちゃくちゃ楽しいのだ。
相性の悪い人にしか恋できない
私がいま付き合っている人は、主語を言わないし、急に話が変わるし、(私からすれば)どうでもいいことに注目するし、日常的に話していてかなり疲れる。相手も私と話すと「いちいち主語を言わなくちゃわからないの? 感じ取ってよ」などとイライラするらしい。趣味も合わないし、色々なことのタイミングも合わない。「私たちって相性悪いね」と言うと「本当にそうだね」と言われる。それでもいまのところ別れる気配はない。
相性が悪い人に恋をすることは、異国の詩集を読むことに似ている。何が書いてあるかよくわからないし、急に話が変わるし、もどかしいけれど、わからないからこそ、わかる部分が愛おしく、挿絵の美しさが際立って見えてドキドキする、そんな体験。気楽でわかりやすい本を読むのも楽しいが、私の場合、最後に宝物になるのはそういう詩集だったりする。
「長く付き合うなら相性のいい人」「価値観の合う人と結婚するべき」「話が合わない人とのセックスは気持ちよくない」といった言葉をSNSで目にするが、それもたしかに一理あると思う。恋愛に「快適」「気楽」「リラックス」を求める人にとっては、「相性の良さ」は重要な条件になるだろう。
でも私は違う。自分の理解を超えたドキドキを求めている。ドキドキしなければ恋じゃないのだ。だからいくら痛い目にあっても、多少イライラしたとしても、相性の悪い人を好きになってしまう。
「相性の悪い人は、はじめはドキドキして楽しいけれど、すぐに関係が破綻するから、長続きしないでしょう」と言われたことがあるが、案外そうでもない。私の場合は、相性の悪い人と過ごすと、いつも自分の予想通りにいかず、もどかしいものの、面白いので、別れる気にならない。「あなたのことをもっと知りたい」という感情が恋だとしたら、いつまでも知り尽くせなければ、いつまでも恋ができる。
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