未練も悪くない。「忘れられない恋」は人生のほのかな希望でもある

好きな人に好かれたらハッピーエンド?

by Lina Trochez

「最近おすすめの小説ある?」とよく聞いてくる友人がいる。おすすめを教えるのはいいが、しばらくするとたいてい「何あの小説。最悪な気分になったんだけど!」と言ってくるから、がっかりしてしまう。「じゃあ、どんなのがいいの?」と聞くと「とにかくハッピーエンドがいい」とのこと。「恋愛小説なら、好きな人に好かれる。付き合ったり結婚したりして終わり。最高の気分になる」と彼女は言う。

私はハッピーエンドの小説なんか嫌いだ。好きな人に好かれても、付き合っても、結婚したとしても、それは通過点であってゴールではない。面倒なことも悩みも増えるし、自分が選ばなかった選択肢について後からグダグダ考えることになる。人生はそうできているし、だからハッピーエンドなんか読んでも、「ウソじゃん」と思ってしまう。

あのとき言えなかったこと

私が結婚することになったとき、むかし好きで好きで仕方なかった人が「え、結婚するの?ショックだなぁ」と言ってきた。「おれのこと好きなんだと思ってた」と笑う彼に、あのときどう言えばよかったんだろう。「じゃぁ今ここで好きだって言ったら、私と結婚してくれるの?」と返せばよかったかもしれない。などと後からグダグダ思う。実際の私は何も言えずにへらへら笑って、そのうちにその話は終わって、おまけに元々の婚約話も流れて、その後二年くらいぼんやりしていた。

今回記事を書くにあたって、「忘れられない人はいますか?」と連絡をいただいたとき、思いついたのは、婚約した人ではなくて、「え、結婚するの?ショックだなぁ」と言ってきた男だった。婚約した人には恩も恨みもあるが、そのとき真剣に考えて、ふたりで話し合って、納得できる答えを出したので、べつに今さら未練はない。一方で、茶々を入れてきただけのズルい男のことをいつまでも忘れられないでいる。我ながらばかばかしいことだ。

彼は中学の同級生だった。私は当時からいろんな男の子とデートをしたり、付き合ったり、別れたりすることに日々全力を注いでいたが、三年生で彼と同じクラスになったとたん、どうしたらいいかわからなくなった。あまりにタイプだったので、何を言うのもするのも怖かったのだ。「好き」とどうしても言えず、卒業直前にやっとの思いで「ファンなんだよね」と伝えた。別に好きとかじゃないけどね、みたいなニュアンスで。めちゃくちゃ好きだし付き合いたいし結婚したいしセックスもしたいというのに。

卒業後も複数人で会う機会はあったものの、「ファンなの」「推してる」みたいなこと以上を言う勇気が出ず、同窓会で彼が「メールアドレス変わってないから、よかったらメールして」と言ってくれたのに、本気だと思われるのが怖くて一通もメールできなかった。その後もたくさんチャンスはあったし、結婚はできないにしても、うまくやればお泊りくらいはできたような気がするが、何もできず、前述した「え、結婚するの?ショックだなぁ」発言の後、一度も会っていない。彼は私がそのまま別の男と結婚したと思っているはずだ。