危うさは誰にでもある

峰なゆか×島本理生『アラサーちゃん』完結記念対談レポート

やっぱり『夜 は お し ま い』の中で、パパ活のお話(第2章:サテライトの女たち)が1番印象的でした。実際に、パパ活女子の取材もされたんですか?

島本

パパ活女子の取材はしていないんです。ただ自分が十代の頃に、女友達が食事の席に呼ばれて焼肉を奢ってもらったとか、お小遣いをもらったとか、そういう話は聞いたことがあったので、どちらかというと90年代の援助交際ブームのイメージを思い出して書いていました。ホストクラブも経験がなかったので、編集の子たちと取材に行ったんですけど、編集の女性陣が丁寧語で話すのでホストの人たちがたじろぐっていう(笑) 温度差が生まれていました。私はダメな彼氏に浮気されている設定で、ホストの子に相談したら案の定「俺に相談しにきなよ」って営業が始まったりして、そういうディテールから小説を作っていきました。

ホストも行かれてたんですね…!(笑) 
パパ活、昔の援交ブームの時もそうだけど、売春ではないような言葉が出始めの時は、本来身体を売るタイプではない1番素人中の素人みたいな女の子がうっかり足を踏み入れやすい時期ですよね。小説では売春どころか、他の女の子を捕まえてセックスを見てもらうシーンがありましたけど、あれはすごかったですね。

島本

当時、性描写を書くうちにどんどん突き詰めたくなって、思い切った方にいくのが楽しくなってきたんです。あと、あの場面は、関係性は簡単にコントロールされるっていうことが自分の中のテーマでした。自分だけはこういうことにはならないって思っているトラップには、だいたい人ははまるんですよね。何であんな男に騙されたりするんだろうっていう男には騙されるし、こんなことをしないと思っていた穴に落ちる。
思えば、関係性のコントロールもそれに近くて、自分だけは最後に正義を守れるかっていうと、できない状況はいくらでもある。日常の中でも、男性の一言で敵にも味方にもなってしまう女性の難しさがあって、その場に支配する人がいたら人間に絶対はないっていう思いで小説を書いていました。そういう危うさは誰にでもあるんだよっていうことを書きたかったのもあります。

自分で納得することが最高のハッピーエンド

◇人の言動について敏感に察知し、それを作品に落とし込めている峰さんと島本さん。そんな風に敏感であることが楽しいのか、はたまた辛いのかを最後に伺いました。

島本

私は相手が自分と近しいほど鈍感になります。よく占い師の人が自分の未来は主観が入るから占わないって言いますけど、それと一緒で私も人の行動に主観が入ると全然分からなくなるので、常に敏感なわけではないかなあ。

私はもともと人と気持ちを知るのが苦手すぎて、社会生活が営めないのはまずいからと思って真剣に考えるようになったので、平均的な能力を持っている人の方が私より本能的に人の気持ちをちゃんと分かっているんじゃないかと思っています。ただ、あまりにも本能的に分かりすぎているから言語化していないだけで。でも、どうしてそう思うのかとか、なんでそういうことするんだろうとか考えるのって楽しいですよね。

島本

楽しいですね。でもそれを突き詰めると、どんどんひどい話になってくるから、その塩梅が難しいですけど(笑) 作家は基本的にハッピーエンドに懐疑的すぎて、疑って疑って疑った挙句のハッピーエンドって素晴らしい!みたいなところに立ち返ったりもする。今は私もそんな感じで、だんだんハッピーエンドを書くようになったら、読者から「島本さんの本がハッピーエンドになった!」とミステリーのオチくらいびっくりされたので、もっと幸せな話を書こう、と思いました(笑)
峰さんはハッピーエンドについてどういう風に考えてらっしゃいますか?『アラサーちゃん』最終話の「ハッピーじゃなければエンドじゃない」っていうタイトルにはすごくグッときました。

私は、やっぱり“ハッピーなのかどうなのか…まあ、どちらとも取れますね”みたいなのが好きなんですよね。

島本

今回最終話を見ていて、自分がこれでいいんだと納得することこそがハッピーエンドなんだなって思ったんです。特に、ゆるふわちゃんの後ろ姿だけの1コマを見て、この背中を見るためにゆるふわちゃんの辛い数年に付き合っていたんだ!って感じました(笑)

ありがとうございます!(笑)

『夜 は お し ま い』&『アラサーちゃん無修正』最終巻

『夜 は お し ま い』(島本理生/講談社)、直木賞作家、島本理生さんの最新作が発売中です! 深い闇から光をつかもうとする女性たちのお話。

『アラサーちゃん無修正7』(峰なゆか/扶桑社)、ぜひ最終話を見届けてください!

TEXT/苫とり子