「自分を弱いと思うことはあなたを救わない」二村ヒトシ✕ジェーン・スーイベントレポ

二村ヒトシ✕ジェーン・スートークイベントレポ

二村ヒトシ×ジェーン・スーイベントレポート

スモール出版から発売された『あなたの恋がでてくる映画』。この本は、『すべてはモテるためである』『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』など、数々の恋愛本を執筆してきたAV監督の二村ヒトシさんによる、恋愛のための映画ガイドです。

刊行を記念して11月14日には、作者・二村さん登壇のイベントが紀伊國屋書店新宿本店で開催されました。ゲストは、コラムニスト、ラジオパーソナリティとマルチに活躍するジェーン・スーさん。「恋愛映画」をテーマにした、お二人によるトークイベントの模様をレポートします!

恋愛映画に何を求めてる?

二村ヒトシ×ジェーン・スーイベントレポート

<現在スーさんは、『UOMO』のWebサイトで、音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんと共に「愛と教養のラブコメ映画講座」を連載中。2人とも恋愛映画を取り扱っていますが、イベント冒頭では映画という娯楽に対して求めるものの違いが浮き彫りになりました。>

二村ヒトシさん(以下、二村)

恋愛映画というからには、恋愛をしている人々が出てくるわけですよ。それを観ての感想は「こんな恋がしてみたい」でも、もちろんいい。けれど、痛タタタタ! これ同じこと俺もやった!……みたいな感情が湧くこともある。しかも、それが恋愛映画に限ったことではなく、例えば『マッドマックス 怒りのデスロード』みたいな恋愛要素がないところがウケた映画なのに、いや実はこれは男と女の根本的な問題が描かれてるのでは! と勝手に思った要素を本に書いて、色々ウジウジ考えるのが僕は好きなんですね。ご来場の皆さんの中にも、我が事としか思えない恋愛映画を観て吐きそうになったり泣きそうになったりした方、いらっしゃるんじゃないかと思うんですが。

<あらゆる映画の中に、隠れた心理や恋愛の普遍的な問題を見出すことが好きだという二村さん。それに対して、スーさんは?>

ジェーン・スーさん(以下、スー)

私にとってのラブコメ映画って火サス(火曜サスペンス劇場)なんですよ!ラブコメ映画って、ポスターの時点で誰と誰がくっつくか分かっているじゃないですか。誰が犯人かだいたいわかってるサスペンスドラマと同じで。

二村

ドラマの最後で必ず謎は解けて事件は解決するし、ビックネームのゲストが、犯人に決まっていますもんね。

スー

そうなんです、『古畑任三郎』にイチローが出演して、端役だったらおかしいじゃないですか。さらに言うなら、火サスにおける“湯けむり”は、ラブコメでおける“マンハッタン”。舞台として好まれがちという意味で。ラブコメ映画は、くっつくとわかっている2人(主人公とヒロイン)がくっつくまでの道筋や、どんな景色を見せるかが作り手の勝負なんですよ。

二村

どのラブコメも定石(じょうせき)は同じであり、しかし定石をなぞっているように見えて実は一つとして同じものはないと。

スー

そうです。だって、高校に来たイケメンの転校生を女の子がポーッと好きになって、めでたしめでたし…なんておもしろくないじゃないですか。でもそれが“う〜〜いい話”とか“いや〜〜気持ちいい”ってなるまでに、何の要素があればそうなるのかとか。お互いがものすごく仲が悪かったりするところから始めるのも定石で、そこからどうやって仲良くなってお互いに好きになるのかとか、そこを見るのがほんと面白くて!

二村

アメリカ人も、ニューヨークが舞台のラブコメ映画を観て憧れているんですかね?

スー

今、ラブコメ映画って大きな過渡期にあるんですよ。やっぱり昔ながらのラブコメには昔ながらの価値観が宿るわけで、男尊女卑の要素や偏見があったりするんですね。ちょっとポリコレ的に厳しい場面も多いし、我々も敏感になっているところがあるから、『メリーに首ったけ』なんかの昔の作品を久しぶりに観ると、安心して楽しめない。徐々に今の時代を反映した作品も増えてきてますが、結局は「明日も頑張ろうかな!」と思える、例えるなら自分では買わないおしゃれな炭酸水を飲んだ時に感じるような心のデトックスみたいなものをラブコメ映画に期待していますね。