ロミジュリはすぐ終わるけど、結婚生活は続いていく

田中美津さん・吉峯美和監督画像 田中美津さん
田中

うちの両親の話をすると、父は母のことをすごく好きだったんですけど、母の方はジョン・ウェインにときめいていて…(笑)

ところが、80歳で母が大きな病気で倒れて。集中治療室からやっと出たら、朝早くに「おとーさん、おとーさん」ってしきりに言うのね。それで慌ててやって来た父を見た瞬間、母がたった一言、「抱いて!」「抱いて!」って、それだけをしゃがれた声で叫んで・・・。もう父はすごく動転して(笑)「お前、そういうことはあまりここではやらないんだよ」って言いながら、あっちへヨロヨロこっちへヨロヨロ。私はおかしいやら仰天するやら、いやもう私が見聞きしたことでは、あれ生涯で一番のビックリでした。

1か月後くらいに母が退院、普通の生活に戻ったんだけど、もう父が全部、掃除洗濯皿洗いまでやっちゃって。母はうれしそうに、「お父さんはね、私が死んだら俺もすぐ死ぬって言ってるんだよ」って・・・・よく言うぜ!

吉峯

ラブラブだったんだ

田中

ホント、これこそ恋愛だよなぁって、感動しましたよ。母は死ぬ間際まで行ったから、ほんとに願ってることが言えたんだと思うのよね。遠くのジョン・ウェインより身近なお父さん。これ、うちのロミオとジュリエットの話よ(笑)

恋愛っていうのは制約されるのよね、主に時間に。私は恋愛を否定してるわけじゃない。ただ恋愛から水けを奪っていく事柄がありすぎる。ロミジェリの恋が瞬く間で、それも死で終わることで永遠性を得るという描かれ方にはちゃんと理由があって、恋ってそれほどはかないものなんじゃないの。

ーーなるほど。死んで永遠になったからきれいに見える。死ななかったら…

田中

死ななくて、やがて子どもができて、王子の甲斐性がないから、四畳半一間で暮らして…。

一同:(笑)

田中

恋愛って、時間の経過に耐え得るものなの?そこに私の疑問があるわけね。
それにあの男じゃなくてこの男にどうしようもなく気持が惹かれるという場合でも、収入や学歴や家柄などは惹かれることにまったく関与してないと言いきれるかどうか。

女性は、女として幸せになるっていうことと、人として幸せになるってことがうまくイコールにならない場合があって、それというのも、メディアや世間から恋=女の命、若い女は恋に生きなきゃダメだというような考えを植え付けられえていて、それプラス、経済的に自立した女にならなきゃいけないというふうにも言われたりして。昔より一層悩みが複雑になっている。

――自立をとろうとしたら恋愛がおざなりになっちゃったり、こっちをがんばろうとしたらこっちが…ってなってます。

田中

大変だよねあなたたちも。で一方、男はっていうと旧態依然だしさ。
恋愛状態を続けるってケッコー大変だから、恋愛した、さぁ結婚だ、結婚だと、まるで結婚が恋愛のゴールのように思われていて。ところが実際には結婚って、恋愛の敵、恋愛の墓場かもしれないのに。
とにかく恋愛って不安定で儚いものだと思うのね。恋愛のことを語りたがるのは、語ることによって「それはここにあるんだ、私のものなんだ」って思いたいのかも。

吉峯

友だちに伝えるのはね。

田中

私の若い時なんて、女の人のときめきといったら恋愛しかなかった。今は自己実現ってかたちで、仕事を通じてとか、やりたいことを通じてのときめきを手に入れられるからね。
ときめくことが増えれば当然悩みも増えるけど、でもときめきが増えてる今のほうがいい。

吉峯

今のほうが両方手に入るから。