「恋愛の楽しさはかけがえない」でも、しなくてもいい自由が人生の魅力/大九明子インタビュー

『勝手にふるえてろ』(2018年)、『私をくいとめて』(2020年)など、アラサー世代の心に刺さる恋愛映画でヒットを飛ばす大九明子監督。その監督が手掛けたAmazon Prime Video配信限定ドラマ『失恋めし』が現在好評配信中です。

ドラマにちなみ、大九監督に「アラサー世代の失恋」をテーマにインタビューを敢行しました。

「暴れていた」30歳

――アラサー・ミドサー世代の恋愛をテーマに作品を撮られることの多い大九監督ですが、ご自身の30歳ごろはどう過ごしていらっしゃいましたか?

大九明子(以下、大九)

30歳はとっくに大人ではあるんですけど、自分が30のときはぎっちょんぎっちょんに暴れてたなと。特に30になる瞬間っていうのが恐ろしすぎて。なんかやらねばと思って突然貧乏ヨーロッパ旅行に出かけて。で、ちょっと安心して。でも、なってみたら30なんてそれがどうしたの? ってぐらいなんでもなくて。

――30歳を目前に焦る人は多いと思います。その当時、ご自身の恋愛についてはどのようにとらえていましたか?

大九

私は恋愛よりは、人生をどう切り開いていくかっていう焦りがありました。恋愛は、私にとってはゴールとかそういうものではなくて、楽しいもの。真っ最中はひたすら楽しい。

安達祐実さん主演の『捨ててよ、安達さん』って作品を撮ったときに、海辺で過去の自分がはしゃいでいるのを今まぶしく見つめているっていうファンタジックなシーンを撮ったんです。その時にほんとに楽しそうに、みんなニコニコしてるから、「やっぱ、なんやかんやで恋愛って楽しいですよね」って私がお話しして、安達さんも「そうですよね~」って、真っ最中は本当に楽しかったですねって。もっと言うと恋愛より楽しいことってなかなかないんじゃないですかって、安達さんにお話しして、急遽そういうセリフを足したんです。っていうぐらい、楽しいですよね。あの楽しさはかけがえがなかったなと、恋愛が現役ではない世代になると思います。

しんどさももちろんある。それは別れの時だったり、毎度毎度生きていけないんじゃないかってぐらい苦しくなるし、でもやっぱり恋愛をしていた時の楽しさ、日々いきいきする感じとか、それはやっぱりちょっとほかのことでは代わりがきかないですね。

一番最初に恋愛だと思ったのは19歳ぐらいの時でしたけど、その彼氏と別れるときに、ショックで4日間ぐらい味噌汁しか飲めなくなって。メソメソしてるところを母に「男ぐらいでみっともない!」って罵倒されたのを覚えています。でも、あの時あんなにわんわん泣いてたのも、時が解決しますから。

地球の未来より、かりそめの今を楽しむ

――素敵ですね……。今の世代には、恋愛がしたくても、やはり苦しく思うことが怖くなって、なかなか踏み出せない人も多いと思います。

大九

今はいろいろ婚活サイトとかもありますし、恋愛したいと思ったら一歩踏み出すってことはやりやすい気がするんですよね。だから、したい人はすればいいし、無理だな、めんどくさいなと思う人はそれはそれで無理しなくていいと思うんです。

種の保存の理屈でいうと男女で恋愛した方いいのかもしれませんけど、そんな地球規模のことどうでもいいですよ。それより男女問わず個人個人が好きな者同士で好きなように生きて行ける方が気持ちいいと思うんです。

恋愛しないなんてもったいないとか、それを言うのも違うなと思っていて。しんどかったことも楽しかったことも知っている側からすると、「え、なんでしないの?」って言いたくなるんでしょうけど、しないで幸せな人はほっといてやってよって強く思います。

恋愛した人はみんなどうせ別れるんだから(笑) 終わりがないことなんてないし、極論を言うとみんな死ぬんだから。かりそめの今を精一杯楽しむっていうことが本能的にどこかでわかってるから、恋愛ってあんなに楽しいんだと思うんです。

――本物の愛やかりそめの恋心を区別して考える人もいますが、そこはあまり分けて考えなくてもいいでしょうか?

大九

たとえば19のときのあの手痛い失恋、あの人とずっと一緒にいても私全然幸せじゃなかったと思うんですよ。
別に今が幸せかっていうと、幸せっていうほどでもないけど、不幸でもなく、自分が居心地よく生きていられるっていうことを選択していった結果なので。だから、人と一緒に生きていこうと思う人も、ひとりで生きていこうと思う人も、本人の居心地のよさを優先すればいい。で、居心地の良さをさておいてでも、誰かに尽くしたり、何かに夢中になることが好きならそっちでもいいですし。正解はないと思いますけどね。

――衝動的な恋愛の楽しさと居心地の良さを区別できるようになるのは、ある程度経験を重ねてからだと思います。大九監督ご自身はいつごろそのことを理解しましたか?

大九

さぁ……いまだに分かりません (笑)