頭文字をつなげて読め!ダイイングメッセージ・カルチャー

渓斎英泉『閨中紀聞/枕文庫』
渓斎英泉『閨中紀聞/枕文庫』1822~1832年 国際日本文化研究センター

今でもたまに目にする、頭文字を繋げて読んで相手に秘密のメッセージを送るカルチャー。
一見すると誰が読んでも何事もない普通の文なのだが、その頭文字を拾って読むと「た・す・け・て」と書いており「キャーー!」ってなるやつ。

このメッセージの送り方は江戸期にも存在し、秘密で付き合うカップルが密会の約束をする場合などに使われたようです。

『文のはやし』上段のみ表記
『文のはやし』上段のみ表記 国文学研究資料館所蔵 クリエイティブ・コモンズ表示・4.0ライセンス CC BY-SA

『文のはやし』の上段(上の掲載画像参照)に「人に拾われて恋と知られざる文」という内容で紹介されています。うっかり恋文を落として他人が読んでも、密会の約束だと気が付かれないようにする方法です。

この間はご馳走下され
よほど食べよい
いろいろお世話になり
しつれい至極
の御事ども何
ぶんよろしく

この文の頭文字を読むと「こよいしのぶ」、つまり「今宵にあなたに偲んで会いに行く」というメッセージになるのです。この頭文字を読む文化は『伊勢物語』にも登場し、広く知られていた手法だったようです(だったら他人に内容がバレる気もする)。

渓斎英泉『地色早指南』1836年頃
渓斎英泉『地色早指南』1836年頃 国際日本文化研究センター

渓斎英泉の『地色早指南(ぢいろはやしなん)』(1836年頃)にも「謎文の書き方」の掲載があります。頭文字を読むと「今夜、九時、忍びて、待ち奉る」となります。一見、天気の話やご馳走になったお礼の手紙と思わせて、密会の待ち合わせの内容となっています。きっとこの謎文のおかげでせっせと密会を楽しんだカップルがたくさんいたのでしょう。

江戸期の恋文の折り方はイチモツの形?!

「好色一代男. 巻1」〔井原西鶴//著〕
「好色一代男. 巻1」〔井原西鶴//著〕,菱河吉兵衛師宣<菱川師宣>//〔画〕 国立国会図書館デジタルコレクション

浮世絵や浮世草子などを眺めていると、恋文の折り方である「結び文」をよく見かけます。手折った桜の枝に恋文を結びつけることもあります(現代では桜の枝を折ると怒られますが)。

この結び文を、なんとイチモツの形に例えて説明している書物があるのです。

恋川笑山『実娯教絵抄(じつごきょうえしょう)』1
恋川笑山『実娯教絵抄(じつごきょうえしょう)』1865~1868年 筆者私物

恋川笑山の『実娯教絵抄(じつごきょうえしょう)』(1865~1868年)という春本に「女中 折形文と結び形の伝」という紙類の扱い方が書かれています。
「文(ふみ)封じやう」にはこのように書いています。

結び文は、玉茎(イチモツ)の形に結んでやること。
こうすると色事ができるのだ。
この理由は、このイチモツの形の手紙を見て心が動き、乱れてくるからである。

恋文を受け取った相手がこの結び文を見れば、ムラムラしてきて乱れるという、まさに江戸期のサブミナル効果!!

結び文がイチモツの形に見えたことは一度もなかったので、これから大河ドラマや時代劇でこの結び文が登場したら「イチモツだ……」と自分の心が乱れてきそうです。

この内容は著者の恋川笑山のジョークであり、当時の人々もジョークとして受け止めたのでしょうが、現代人が読めば「これはイチモツの形が由来だったのか!!」と勘違いしてしまいそうですね。

【参考文献】
「恋する日本史」株式会社吉川弘文館
「一九『文しなん』と陽起山人『文のはやし』」板坂則子

Text/春画―ル

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