好きな人の好きな人、だから自分も好きになる」/映画『ひらいて』首藤凜監督インタビュー

首藤凜監督

「私だけが彼を好き でも、入り込めない それなら 好きな人の好きな人を奪えばいい」――芥川賞作家・綿矢りさの小説を原作に、思春期の暴力的な恋愛感情を描く映画『ひらいて』。主演の木村愛役には話題作へ続々出演する期待の女優・山田杏奈、相手役であり物語のキーマンになる「たとえ」役にはHiHi Jets/ジャニーズJr.としての活動も著しい作間龍斗が映画初出演。

監督・脚本を務めるのは自主映画で数多くのタイトルを受賞し、ドラマや映画などへの脚本提供を行う26歳の首藤凜。商業映画初監督となる首藤監督に、破滅的な恋、そして他者との関係性をテーマにAM単独インタビューを敢行しました。

映画監督としての礎になった『ひらいて』

首藤凜監督

――首藤監督が「ひらいて」を映画化するにあたり、『この映画を撮るために生きてきた』というほど原作に強い思い入れを持った理由を教えてください。

首藤

原作をはじめて読んだのは17歳のときで、まだ人生で色々なことが起こる前だったのもあり、「恋愛」というのは、好きな人に好かれるものという価値観で生きていて。けれど、『ひらいて』を読んで、すごくいびつな三角関係の中で、思ってもみない方向から人に受け入れられることがあるんだっていうことにすごく衝撃を受けて。これからの人生にこういうことが起きるんだなという強い予感を感じたのがきっかけです。

でも、原作を読んでから映画を撮るということを始めたので、『ひらいて』の刷り込みが大き過ぎて……(笑)『ひらいて』自体が、自分の性癖みたいになっているかもしれないです。

――首藤監督は女子校出身でいらっしゃいますが、作中では共学に特有の探り合う感じや思春期の雰囲気がとてもリアルに再現されているなと感じました。その点は、どう意識して演出されましたか?

首藤

基本的にはメインキャスト3人のことだけを考えて脚本を書いていきました。なので、共学だからと強く意識してはいないんです。

美雪だけは、原作の「精巧な人形のような外見」というイメージから、キャストの芋生(悠)さんのイメージに感じをちょっと変えています。漫画とか、ジャンプとか読んでるんだろうなとか、細かく考えた感じです。

主人公の愛ちゃんのスクールカーストが高いっていうのは、「共学でもこういう感じで合ってるのかな?」と悩みつつ演出しました。ダンスのシーンは、母校でも「ダンスするグループはスクールカーストが高い」というのがあって、原作から追加しましたが……。

――私たちは共学出身ですが、その感じ、すごくリアルだと思います!

首藤

そうなんですね!よかったです(笑)

学生時代、まわりと合わなくてつらかったっていう人って結構いると思うんです。でも、私は女子校にいたときには、ずっと女の子といたから、みんなが自分の分身のようなイメージを持っていました。別の自分がたくさんいるみたいな、深いつながりを一方的に感じていて。それはもうない感覚ですけど、お話を考えるときだけ復活させてる感じがするかな。

――だからこそ、どのキャラクターも地に足がついていて浮いた感じがないんですね。その意味では、原作に比べると、ミカのキャラクターも強調されていましたね。

首藤

その質問、うれしいです。ミカ、好きですね。愛と美雪に絞られていく話ではあるんですけど、メインのキャラクターに対して「もともと仲の良かった女の子」っていうキャラクターがいると、物語として安心するんです。ミカは特に自分の分身感がありますね。

私自身原作を読んだ時には、すごく愛に共鳴したし、愛に本当は共感していて、異性の前では愛になれる人って結構いるんじゃないかなと思うんですけど、でもやっぱり同性の前だとミカみたいになりがちだなって感じるんです。

首藤凜監督

――愛やミカは首藤監督に近い存在として理解されていますが、逆に、たとえや美雪はどのように解釈されましたか?

首藤

私がやっぱり愛のような俗っぽい側だから、難しくて。綿矢さんもおっしゃっていたんですが、二人は神聖な存在で。二人きりで喋っているシーンって最初と最後、ふたつの場面ぐらいなんですよね。はじめのほうの脚本では、美雪がたとえの傷を手当てしたり、ダンスするグループにいることをセリフで語らせたりしていたんですが、何度も書き直したけどピンとこなくて。でも芋生さんと作間(龍斗)くんに会って、セリフを削っていく勇気をもらいましたね。

――キャストの方とは事前に話し合ってセリフの言い回しなどを変えたそうですね。その点は、各キャストの方それぞれでどのように変化させていったんですか?

首藤

小説はセリフが独特で。口語と文語が混じったような独特の不思議な文体なんですよね。でも、頭の中で考えごとをしているときって文語とも口語ともつかない言葉だったりするから、言いやすいように変えていく部分と、特に愛のセリフについては山田(杏奈)さん自身が「愛のことがわからない」と言っていたから、読まされているうちに役になっていけばいいなと思って、セリフとしてわざと文語っぽく残しているところもあって。

たとえ君も全然変えていないけど、たぶん役柄とご本人が合っていて。ただ、原作だともうちょっと断定口調だったりするのを、やわらかい感じには変えましたね。

美雪は、一箇所だけ、「愛ちゃん人気あるし絶対彼氏いると思った」というセリフを、最初の台本では「愛ちゃん『男子に』人気あるし〜」って書いていて。でも、芋生さんに「美雪は『男子』って言わないかもしれないです」と言われて。

――たしかに、美雪は良くも悪くも男女の区別があまりついていなさそうですね。

首藤

そういう概念の中にいなさそうですよね。「みんなに人気がある」ってざっくり愛のことを思っていた方が、状況を読めていない感じ(笑)それは芋生さんに助けてもらいましたね。