物語を通じて3人に「出会う」

首藤凜監督

――男性に対する恋愛感情が、いつしかその人にまつわる女性への執着と区別がつかなくなるのは、首藤監督の作品全体に共通するテーマでもありますよね。

首藤

そうなんですよね、結構……(笑)『ひらいて』を読んでめちゃくちゃその価値観を植え付けられて。自分自身も近いような経験をしたり。

入り口としては、好きな人の好きな人ってことは、つまり自分に持っていないものを持ってる女の子っていう部分ですごく惹かれるんだと思うんですけど、感情移入してきちゃうんです。似てないからこそより、好きになっちゃう。愛も美雪を好きになっちゃってるかもしれないから。どちらが好きなのか、わからなくなっていっちゃう。

――今のお話で、よく理解できました。愛の感情や行動は暴力的で、破滅してしまいそうな綱渡りな部分があります。それは、ご自身の感覚と共感できるものですか?

首藤

私はどちらかと言えば破滅的なことをやっちゃうタイプなんですけど……やっちゃわない人も大勢いて。杏奈ちゃんはずっと愛のことがわかりませんって言っていて。でも、わからないまま演じてもらった方が、愛も愛自身のことがわかってないからおもしろくなるのかなと思って。

杏奈ちゃんは、愛がわからないって言ってるけど、ト書きに書いてあることは迷いなくやるんです。独特の反射神経というか。ゴミ箱を投げるシーンで「どういうふうに投げると思いますか?」って聞くと、「愛は思いついたらすぐ投げると思います」と返されたり。そういう部分は山田杏奈ちゃんの演技の外、意識外にあるものな気がして。だからこそより、迷いのない人として画面に映るんだと思います。

――登場人物の破壊的な感情や行動は、見る人にとってどう映ると思って作ったかを、最後にお聞きしたいです。

首藤

脚本を書く時は、誰かが見るということを考えてなかったです。いや、考えてはいるけど、すごく小さい話だから、小さいままで書いて、なるべく個人的なものであるほうが、私自身は「出会った」って気持ちが強く持てるので。いろんな人にハマろうとして普遍化されちゃう物語ってやっぱりちょっと悲しいから。

ただ普遍的であるべき部分とそうじゃない部分は考えました。特に編集の時にはどういう風に見られるんだろうということは意識しましたけど。

原作を読んだ時に「ここにしかいない3人に出会った」って思ったから。出会い直したいなという思いはあったかもしれません。

――観客が映画を見ることによって、この3人に出会ってほしいと願っていたんですか?

首藤

私が出会いたかった。映画を撮ることによって、私がもう一度3人に出会いたいということを念願にして、作ることでそれが叶った気がします。

――ありがとうございました!

映画『ひらいて』公開情報

2021年 10月22日(金) 全国ロードショー

出演

山田杏奈

作間龍斗(HiHi Jets/ジャニーズJr.) 芋生悠

山本浩司 河井青葉 木下あかり

板谷由夏 田中美佐子 萩原聖人

監督・脚本・編集:首藤凜

原作:綿矢りさ『ひらいて』(新潮文庫刊)

音楽:岩代太郎 主題歌:大森靖子「ひらいて」(avex trax)

制作プロダクション:テレビマンユニオン 製作:「ひらいて」製作委員会 配給:ショウゲート

©綿矢りさ・新潮社/「ひらいて」製作委員会 PG -12

TEXT/小村はる

Photo/サカモトミナミ