2人のプレゼンで危機一発!取引先の女性と「ねんごろな関係」になった日

これまで5回、取引先の女性と「ねんごろな関係」になったことがある。打ち合わせで彼女の会社に行き、彼女の上司も交えた打ち合わせをすることもあれば、別の女性の場合は僕の会社に来て打ち合わせをすることもある。

この5人の女性との時間は本当に素晴らしかったと今でもしみじみと思う。何しろ仕事という互いの生活を成り立たせる真剣勝負の「仲間」として日中はお互いスーツを着て仕事をしている。そんな真面目な姿しか見ていないのに、いざ「ねんごろな関係」になる直前はまったく違う面を見て、それにお互いホレてしまうのである。

金沢でのプレゼンで想定外のトラブル

僕は住宅メーカーの社員で、北川さんは設計事務所の社員だった。僕は28歳で彼女は30歳。東京から金沢に新幹線に乗って2人で施工主であるクライアントに競合プレゼンに行った。上司は「お前ら若い2人で勝ってこい!」と後押しをしてくれたのだ。本当はそこまでの金額でもないため「お前らでなんとかしてこい」ということだったのだろう。こうしたプレゼンの場合、設計事務所の社員が図面等は印刷していくものである。

金沢駅に着いた瞬間、北川さんは「アーッ!」と言い、血相を変えた。

「どうしたんですか?」

「ニノミヤさん、すいません……。私、今回の図面と企画書の印刷をし忘れてしまいました……」

僕もこの発言には焦ったものの、まだこのときはプレゼンの1時間半前だった。僕の会社の北陸支社にデータを送ってもらえば印刷はしてもらえる。クライアントの人数分をカラーでプリントアウトできればプレゼンには間に合う。僕はすぐに北陸支社の知り合いに電話をし、今から印刷ができないかを聞いたら「早く来い! すぐにやってやる!」と言われたため、この知り合いに彼女から大容量データファイル便を送らせ、必要部数を用意してもらうことになった。

すぐにタクシーに乗り、支社へ。印刷は終了間近だったので知り合いは「ニノミヤ君、もうすぐ終わるから待っててね。今日、競合コンペは絶対に勝ってね」と言った。北陸支社で受ける手もあったのだが、北陸支社はその時多忙過ぎてこちらに仕事が回ってきたのだ。

かくしてプレゼンをしたのだが、クライアントの反応を見たら「多分勝った」という感じだった。競合他社のプレゼンが終わった直後にプレゼンルームに入ったらクライアントは眉間に皺を寄せていた。恐らく僕らの競合のプレゼンに満足していなかったのだろう。

そんな状況でプレゼンをしたら、「ウンウン」という感じで頷いてくれる。北川さん自身はこの設計の当事者ではないが、大御所の下で鍛えられているだけにキチンとしたプレゼンをしてくれた。その大御所への信頼感があるのも分かっていたため、僕は彼女のプレゼンを安心しながら聞いていた。こちらがやるのは、納期や予算に関する質問の回答だけでいい。

かくして45分のプレゼンが終わったのだが、我々はかなりの達成感に浸っていた。

「これは勝ちましたね!」

「ニノミヤさんがちゃんと印刷の手配をしてくれたからです!」

「いえいえ、こんなもんは、お互い様じゃないですか。一緒にうまくやればいいんです!」

「今回、ご迷惑をおかけしたので、ちょっと金沢でごちそうさせてください」

北川さんはこう言ってきた。もしも金沢で食事をした場合、多分、北陸新幹線の最終には間に合うかもしれないが、あまりゆっくりはできない。だが、実は僕は富山市の出身で、富山には詳しい。そこまで土地勘のない金沢よりも、すぐに行ける富山で自分のなじみの店に行き、あとは駅近くのビジネスホテルに泊まった方が今日の勝利(まだ分からないけど)を存分に楽しめると考えた。

そう伝えると北川さんは「わーっ、ニノミヤさんの地元に行きたいです!」と言ってくれた。かくして我々は在来線に乗って富山へ。なじみの店に2人分で予約はした。