肉寿司で腹を満たした二人は…

腹を満たして外へ出ると外は雨。

「雨だー!」

男はそう言いながら急に走り出してタクシーを捕まえた。ほとんど会話ができなかったので相手の調子がイマイチ掴めない。

もう帰っちゃうのか? しょんぼりしているとタクシーの中から手招きをされたので何も考えず乗り込んだ。男は目的地を告げるなり、私の頭を掴んで強制的に膝枕(頭を乗せる側)をさせられた。まるで私は犬。
その体勢のまま目に写った運転手のハンドル捌きと雨に濡れたフロントガラスの向こう側は信じられないくらい幻想的だった。まだ観てないけど、『愛がなんだ』って多分こんな感じだろうな。

クリエイターはみんなデザイナーズマンションに住んでいるのかと思っていたけれどそうとも限らないみたい。3点ユニットバスという部分に親しみを感じる。「ユニットバスのほうがシャワーでトイレを洗えるから掃除が楽じゃん」という潔ささえ感じられる。そんなところも漢らしい。キュンである。
とりあえず、この日のことを忘れてはいけないような気がしたので部屋の写真を記念に1枚撮った。

目線の先にちょうど本棚があったので暇つぶしに眺めていると、なかなか渋いラインナップ。どれも50〜80年代あたりの作品ばかり。いかにも映画通みたいな台詞だが、自分に分かるのは年代とジャンルだけだ。通ならここで何か語り合うことができただろうと思うと、無知無趣味の自分を恨んだ。

そして朝。起きると、武井咲がEXILEのTAKAHIROと結婚したというニュースがちょうど流れていた。だからなのか、男は急に「俺も████と結婚したかった、本気で……」などと言ってうずくまりだした。████の顔は知ってる。変わり者でマイナーな女優だ。でも出演作を一本も観たことがない。またしても話が広げられない自分の好奇心のなさを恨んだ。

その後は駅前の喫茶店でモーニングを食べて、あっけなく解散。

あのワンレンに宿る魂

特別何かがあったというわけではないけれど、言うことなすこと全てが想像の斜め上で終始慣れなかった。ろくな会話なんかできちゃいない。

おまけにあれ以来一度も会っていないけど、無理もない。あんなに会話のネタになるヒントがたくさんあったのに何一つ拾おうとすらしなかったのだから当然のこと。私は自分の無個性さを恨んだ。

彼の持つ特異さや若干の狂気が正直かっこよかった。モテや世間体だとか、マナーや常識だとかにとらわれずに自由に羽を広げられる強さが欲しい。あの強さはどこから来ているんだろう?

私はふと、あのぶっきらぼうな無精髪のワンレンに宿っているような気がした。

物に魂が宿るという。
ならば時間をかけて伸ばした髪にもそれ相応の何かが宿ってもおかしくはないはず。調べてみたところ、日本にはつくも神をもじった”つくも髪”なんて言葉が和歌に残されているらしい。
(※つくも神とは…日本に伝わる、長い年月を経た道具などに神や精霊などが宿ったものである。wikiより)

ワンレン……センター分け……ロン毛……まてよ、とんでもないことに気づいてしまった。キリストの髪型じゃないか!!

それからオノヨーコもそうだし、日本赤軍の女帝こと重信房子も。説得力のある人物ばかりが頭に浮かぶ。大丈夫だろうか? パンドラの箱開けちゃわない?

何かを始めなくちゃならない気がした。とてつもない使命感。つまりそれは、ワンレンを普及させるとか、あるいは己がワンレンになるとか。
そのためにまずは誰よりもワンレンを愛さなくては

あれから約5年。
この髪型に目覚めたおかげで、私の重度な面食いが治りました。

Text/oyumi