何もかも捨てて孤独を選ぶ女性

「とてもよくわかる」とはいえ、「俺の人生はなんなんだ、どうしてこうなったんだ」と悩み、何もかも捨てて旅に出てしまうのは、現実でもフィクションでもだいたい男である。『走れウサギ』は面白いけど、やっぱりあくまで男性の物語なので、私はそこにどうしても疎外感を覚えてしまう。ちくしょー、女だって何もかも捨てて旅に出たいときがあるのに! とモヤモヤしていたところ、先日観たのがクロエ・ジャオの映画『ノマドランド』だった。

『ノマドランド』の主人公ファーンは夫を亡くし、リーマンショックの影響で家も失い、アマゾンの倉庫などで短期労働を繰り返しながら車上生活を送っている。高齢女性の車上生活はもちろん生易しいものではなく、ファーンをウサギのような身勝手な男と比べちゃいけないかもしれないけど、家を捨て、家族から逃げ、孤独に旅をすることを選ぶ女性の物語が現代に生まれたことに、少し希望を感じた。

家庭を築いておきながら「俺の人生はなんなんだ、どうしてこうなったんだ」なんて思う人間は身勝手かもしれないけど、屋根がある生活も選べるのにわざわざ車上生活を送るのは意味がわからないかもしれないけど、それでも孤独を選ばなきゃならない瞬間ってのが、30代になっても40代になっても、50代になっても、きっと誰にでもあるんじゃないだろうか。孤独も焦燥感も、若者の特権ではない。

現実には許されないことでも、物語の中でくらい、家庭も責任も何もかも捨てて、旅に出てもいいのではないか。というか、現実では許されないからこそ、そういう物語が必要なのではないか。最低男が主人公の『走れウサギ』も好きな小説なんだけど、孤独に旅する女性の物語がもっともっと増えたらいいな〜と、切望している私です。

Text/チェコ好き(和田真里奈)

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『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか -女の人生をナナメ上から見つめるブックガイド-』は、書き下ろしも収録されて読み応えたっぷり。なんだかちょっともやっとする…そんなときのヒントがきっとあるはすです。

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