原稿に行き詰まっていたら、天の声が聞こえた

――幻聴や被害妄想といった、いわゆるアルコール依存の症状が出るようになったのは、いつ頃からですか?

まんしゅう

初めて幻聴を聞いたのは、実は『ハルモヤさん』の第1話のネームを描いてるときだったんです。ネタに行き詰まって、空に向かって「誰でもいいから助けてください……死んだ漫画家の霊でもいいからアドバイスをください!」と祈っていたら、「今回のネームはいまいちです。もう一回練り直してください」という天の声が聞こえてきて。

――それ、言ってることはただの編集者ですね(笑)。

まんしゅう

それで、書き直したら「これならまあ大丈夫でしょう」って言われたの(笑)。そのときはお酒のせいだとは思ってなくて、「やった、とうとう私にも霊感がついた! 宇宙と交信できるようになったんだ!」と思って、喜んで弟に電話したんですよ。それまで漫画が描けなくて鬱々としていたわたしが、やっと吹っ切れた明るい声で話すもんだから、弟は「よかったな」と一緒に喜んでくれて。

――そこは受け入れてくれたんですね(笑)。

まんしゅう

それ以来、どうやらお酒を飲むと天の声が聞こえやすくなるぞって学習しちゃったんですよ。漫画に煮詰まってどうしようもないときは、お酒を飲んで犬の散歩に出かけては、「早く迎えにきて助けて」ってお願いするようになったんです。すると、頭の中にダイレクトに声が響いてきて、アイディアがひらめいたりするから、どんどんハマっていっちゃった。結局、それが幻聴だったことに気付いたのは、医者を受診して薬をもらって、声が聞こえなくなってからでしたね。

――それと、お酒を飲んでいるとフレンドリーな性格になれるから、「もっとおもしろい人間にならなきゃ」「おもしろい話をしなきゃ」という強迫観念でますますお酒を飲むようになった、という動機も印象的です。

まんしゅう

Twitterで『アル中ワンダーランド』の感想を読んでいると、「わたしもお酒を飲まないと人とうまく話せない、だから飲んじゃう」という人がたくさんいるんですよ。ああ、みんな同じなんだな、と思って。でもそれ、アル中予備軍かもよ、と思いながら読んでます。

――きつこさんはきっと、周りの期待に応えなきゃという責任感が強いんでしょうね。阿佐ヶ谷ロフトAのイベントでの「おっぱいポロリ事件」も、現場でその瞬間を見ていたんですが、「おっぱいとか出しましょうか?」「出したほうがいいですよね?」ってしきりに言ってた記憶があります(笑)。

まんしゅう

あのときは緊張を紛らわそうとお酒を飲み過ぎたせいで、ろくにしゃべれない状態になっちゃったから、「なんとかこの場をおもしろくしなきゃ」と焦っていたんですよね。そもそも“まんしゅうきつこ”というペンネームもそうなんですけど、過剰なサービス精神がいつも変な方向に行っちゃうんです。

――根がすごくまじめなんだと思いますよ。

まんしゅう

うん、それはね、わたしをよく知ってる人からは言われる(笑)。昔から、長女として弟と妹の面倒を見なきゃ、みたいな使命感もすごくあったし。小学生の頃は、わたしの後ばっかりついてくるような弟だったのに、今はすっかり立場が逆転しちゃいましたけど。

――弟の写真家・江森康之さんとの姉弟関係が、なんかいいですよね。『アル中ワンダーランド』の感想の中にも、「辛辣で容赦ないことも言うけど、なんだかんだきつこさんを見守っている弟さんに萌えた」っていう人、けっこういますよ。

まんしゅう

ほんとですか? 今でも一日5回以上怒られるのでノイローゼになりそうですけどね…(笑)。