大切な人と別れた直後の彼女がすごく綺麗だった理由

決断した直後、女性は綺麗になる

世界は一人の女を受け止められる

友人が、長年付き合った彼と別れることになった。
もう何年も前から同棲していて、すでに家族のような存在だった彼。友人は今年ついに30を迎え、いよいよ結婚も視野に入れて動き出そうとしていた矢先に、思いがけず事件が勃発した。詳しい説明は省略するが、結構な修羅場の末の、別れ。こういうときこそ我々の出番と、私と、そして私と友人がともに信頼する年上のお姉さんの3人で食事をした。すぐに割り切れることばかりではないだろうけれど、それでも覚悟を決めた様子で淡々と、ことの成り行きを話す友人。ひとしきり話を聞いた後、それまで黙って話を聞いていたお姉さんがおもむろに口を開いた。

「でもあなた今、すごく綺麗よ」

それだ、と私ははっとした。その日、店に入ってくる友人を見た瞬間から、彼女がいつもとはどこか違うと感じていたが、いつもと違って当然と、別段気にも留めていなかった。ところが、お姉さんの一言でふいに気付かされたのだ。最初に感じた不思議な違和感の正体は、目の前の彼女がまとう、いつにも増して際立つ美しさにあったことを。

似たようなことが昔にも一度あった。私がまだ子供だった頃のある日。母と私は近所の祖母の家で、母の妹、つまり私の叔母の帰りを待っていた。当時、叔母は32、3だったかと思う。公務員として働いていて、収入も安定していた。稼いだお金で一人、チベット旅行なんかにも行っちゃう、田舎では珍しい自立した女性だった。性格的に好き嫌いもはっきりしていたため、周りが持ちかけたお見合いを何十回とこなすも、なかなか結婚には至らなかった。

ところが、そんな叔母にもいよいよその時が来た、ということだった。今回のお見合いはかなりの好感触で、叔母は何度かデートを重ね、祖母によると今日のデートでいよいよ決めてくるということらしい。ようやく訪れたこのときを盛大にお祝いしようと、あろうことか母は特上寿司まで頼み、ぬかりなく祝宴の準備を整えて叔母の帰りを待った。……ところが。帰宅した叔母は食卓を彩る特上寿司を見るなり途端に顔を曇らせた。というのもその日、叔母は先方に「やっぱりごめんなさい」を告げて戻ってきたのだ。

そんなはずではと慌てる母、そして祖母。お祝いムードが一転してお通夜化し、仕方がないからみんなでしんみりと特上寿司をつまんだ(それがより一層お通夜ムードに拍車をかけた)。可哀想に、未だ新鮮なことの顛末を渋々話し始める叔母。先方を良いと思ったのも事実で、結婚も前向きに考えていたが、受け入れられないことと天秤にかけた末、やはり決断することはできなかったと、叔母はそういうことを話した。
不思議なことにその日の叔母がいつにも増して綺麗に見えて、幼心に驚いたことを、私は未だに忘れられずにいる。