恋愛体質な彼女
先日、とある付き合いたてほやほやのカップルとのランチ会に赴いた。
男性の方とも、女性の方ともそれぞれ以前から面識があったのだが、出会ったのは別々のタイミングだったので、まさか交わる事のなかった二人がいつの間にやら交わっていることに非常に驚いた。待ち合わせていた店に連れ立ってやってきて、並んで座る2人を目の前にしても尚、どこか不思議な感覚である。
「何頼む?ハンバーグにしよっか!焼き加減は?」「レアで」
付き合いたてとはいっても、注文ひとつとってもすでに阿吽の呼吸である。付き合いだしたきっかけや現在の状況など、主にわたしと彼女とで話しをするのだが、たまに彼の方に話題をふってみると「どうなの?」と彼女がニッコリ微笑みながら彼の顔をぐいっと間近で覗き込む。彼はそれに照れながら嬉しそうに答える。そんな彼を、ただただ愛おしくて仕方がないという感じで、うっとりとした眼差しで見つめる彼女。
彼女の一連の仕草はどれも、女の私でもドキドキしてしまうような色っぽさ、大胆さである。これはええもん見せてもらっている、しかと目に焼き付けておかねばと必要以上にギラギラした目で凝視する私。すると彼の耳を自らの両手でふさいでから、彼女が、ウフフといたずらっぽい笑顔を向けて教えてくれた。
「私ね、恋愛体質なの」
「え、今なんて言ったの?」と尋ねる彼に「ん?気になる?内緒」と言いながらやはりニッコリ微笑み、彼の方に顔を寄せる彼女。次第に二人の距離はどんどん近づき……えっ、そ、そんなっ、もしかして…とこちらの動揺をよそに、期待に応えてまさかのKISS。10余年の主婦期間を経て娑婆に復帰したばかりの私には大変刺激の強い昼下がりとなった。
恋愛体質を自認する彼女は、幼少期から本を読むのが大好きだったという。本のこと、そして彼のこと、自身の好きなものについて目をキラキラさせながら屈託なく話す彼女は、私と同じ21世紀の東京砂漠を生きている現実の女性というよりどこか、物語の中に生きている天真爛漫な少女といった雰囲気をまとっている。
そんな彼女を見ているとつくづく、恋愛力とは陶酔力なのだと思わされる。そもそも主観から逃れられない私たち、泣いても笑っても自分の物語を生きるより他ないのだからこんなこと言うのはおかしいようだけど、大人として自分を客観視する能力を必要とされる中で、好きな相手に、あるいは自分の心地よい愛の世界に、少女のようにまっすぐな心で陶酔するというのは案外至難の技なのだ。