言葉は“救うためにある”と信じてる。あらゆる暴力に傷ついてるあなたに/椿

私の連載では「恋愛」の要素はスパイス程度に留めておこう、と決め込んでいたわけですが、それでも筆を取らざるを得なかったことがある。
つい先日、同業男性がDV加害で逮捕との報道を受け、ざわつく界隈の反応を追っているうちに、心に封じていた扉が軋む音がした。
これは白だ黒だの言及ではない。同業者ゆえの使命感に駆られた言動なんかでもない。
内に秘めてきた思いが疼く案件だったから。

“DVを許してはいけない。力で勝る男性が女性に手を上げるなんて以ての外!”

それは当然だし、あらゆる暴力行為において加害者を弁護する余地もない。もしパートナー間で起こったことであれば、別れる決断が絶対に正しいと思う。白黒なら明確。
それなのに、そんな“当然”や“絶対”とは少しズレた部分に気持ちが向いてしまう私がいるのは、心が叫ぶ「それでも…」に身に覚えがあるからだ。

あの頃の私は、広大な“グレーゾーンの中の濃淡”を右往左往していた。
私自身、DVの実態に悩み、考え抜いた経験がある。

ラッパー椿さんの画像

白黒じゃ語れない心

ご存知の通り、私はラッパーなもんで、弁が立つ。口げんかの末に相手の暴力的衝動を誘発してしまうこともある。言葉が強いことは自覚しているが、だからといって、手を上げられる理由として受け入れてはならない。相手を愛しているなら尚更、決して許してはいけなかったのだ。

当時の彼とは、環境的にも精神的にも込み入った関係だった。基本的に仲は良かったが、ケンカになるととことん激しくぶつかり合った。我慢ならずどちらかが多少でも手を出せば、もう一方もやり返す。そんなケンカの仕方を良しとしてしまっていた。
肉体の構造上、怪我を負うのはいつも私だったけど、最初のうちはお互い様だと笑い飛ばせていた。今思えば、子供のケンカじゃあるまいし、早いうちに芽は摘んでおくべきだった。

案の定、ケンカきっかけだったはずの事態はいつからか酒癖と融合し、動機のない一方的なものにエスカレートしていった。もうお察しだろうが……、一度許してしまったら最後。
“暴力を振るっても許される存在。” 彼の潜在意識に刷り込まれてしまったようだ。だんだんと状況は笑えなくなり、気付いた時にはすでに、歯止めが効かないステージに突入してしまっていた。

暴力性を孕んだまま発達した関係は、破滅にしか辿り着かなかった。
命の危険を感じて家を飛び出した夜、私はようやく離れる決断をした。

離れたことは正しかったと思うが、随分と時を経た今でも考えることがある。
私が勇ましい性格だから彼がそうなってしまったのかなぁ……とか。もしあの時、応戦するんじゃなく抱きしめてあげれば、何か変わってたのかなぁ……とか。

傍から見れば、立派な“洗脳されたDV被害者”な思考なんだろうけど(笑)、彼ばかりを責める気持ちになれないのは、二人のことだから。
「最低」と切り捨てられると“当然”でありながらも、どこか心が傷む。だからこうして筆を走らせるんだろうけど……。
一つ確かなことは、閉鎖的な暴力のループを脱出しなければ、遅かれ早かれ全てを失うことにもなる。だから今は、ただただ同じ過ちを繰り返さないよう願うばかりだ。私自身も、もう二度と精神的に甘えすぎる関係性に陥らないように気をつけている。