自分は何者なのか?――パラパラ読める『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』で己の物語を見つめ直す

何に心を動かされるのか、美しいと思うのか

本を読む女性 ミンアン

これまで私は自分のことを、超内向的なインドア人間だと思っていた。4人以上が集まる飲み会は好きじゃないし、休日は家事をして本を読んでAmazonプライムで映画を観るのが普通。緊急事態宣言以降も、幸運なことにもともと在宅勤務が多い仕事をしていたから働き方にそこまで変化はないし、ひとり暮らしなので生活を家族に合わせる必要もない。ようするに、外出自粛生活、私にめちゃめちゃ向いているはずなのである。

それなのに、世の内向派がつぶやく「正直、この外出自粛生活がもっと続けばいいと思ってる」という後ろめたい幸福感は、今のところまったくわき上がってきていない。内向的インドア人間なのに、どちらかというと「できる限り早くもとの世界に戻ってほしい」と願っている。考えられる理由としては、私はインドア派だけど旅行狂いなので、自由に飛行機に乗って遠いところに出かけられない状況はやっぱり少し辛いらしい。逆に、社交的でアクティブなはずの知人が「正直もう、もとの生活に戻りたくない」と言っていることもあって、人間の内面は表に見えているだけではわからないんだなあと思う。

大きな災害や戦争は、もちろん起きないほうがいい。だけど、それまで何の疑いも持たずに受け入れていたルーティンを否応なしにストップさせるそれらは、「自分たちが何者であって、何を標榜していて、何を信じているか」を、考え直すきっかけになり得るのかもしれない。

今回読むのは、ポール・オースターが編者となっている『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』だ。この本が刊行されたのは、2001年9月13日。あの、アメリカ同時多発テロの2日後である。本のプロモーションのため、オースターはこの時期に全国の書店をまわった。そして、全世界に衝撃を与えた同時多発テロ事件を受けて「自分たちが何者であって、何を標榜していて、何を信じているか」を考え直している人々に、まさしく出会ったのである。

毎年、人知れず一輪のバラを供える女性

『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』は、オースターがラジオ番組で、アメリカに住む一般の人々から募った人生の物語をまとめたものだ。一応、「動物」「物」「家族」「スラップスティック」「見知らぬ隣人」「戦争」「愛」「死」「夢」「瞑想」と10のカテゴリに分かれていて、1つ1つは短く、また実話である。1つの話が長くても4〜5ページなので、長い物語を咀嚼する体力がないときでも読むことができる。長引く外出自粛生活に疲れている人も少なからずいると思う。体力はないけど、「自分たちが何者であって、何を標榜していて、何を信じているか」を考え直すきっかけになる……まさに、今の状況にぴったりの本なのだ。

私の好きな物語を1つ紹介する。ある女性が、20歳のときに、43歳の男性に恋をした。年齢差のある恋人と交際することを彼女の両親は大反対し、学費を打ち切ると脅してきたので、彼女は恋人と3ヶ月会うことをやめる。しかしなんと、その3ヶ月間に、妊娠してしまったのである。父親は、43歳の恋人ではない。養子に出すか、結婚するか。彼女は恋人と別れ、子供の父親と結婚した。そしてあろうことか、子供を出産する前に、恋人は交通事故でこの世を去ってしまった。

会うのをやめる前、恋人は彼女に、墓地の区画を買った話をしていた。43歳で墓地の区画を買うなんてと思っていたけど、おかげで、彼女は恋人がどこに埋葬されているか知っている。毎年、人知れず彼の墓を訪れて、彼女は一輪のバラを供えるという。