何か原因がある、と思うとラクだけど

「公正世界仮説」という言葉を知っている人も、きっといると思う。人が正しい行いをすれば、正しい結果が返ってくるはずだと考える認知バイアスだ。だけどまわりを見渡してみればわかる通り、世の中はそんなに簡単にはできていない。悪いことをし続けても何の罰も受けない人間もいれば、良い行いをし続けても一向に報われない人間もいる。

何か問題があるから結婚できない。夫婦のどちらかに、あるいは双方に悪い部分があったから不倫を招いた。そういった考え方は、原因や問題を取り除けばいいわけなので、苦しい中にも実は救いがある。だけど現実には、特にこれといった原因や問題があるわけではなく、ただ事の成り行きとして訪れてしまった結末が、たくさんある。

「誰も悪くない、特にこれといった原因はない」悲劇は、どうすることもできないぶん救いがない。だけど、正しい行いをすれば正しい結果が返ってくるわけではないと身に滲みてわかると、逆に、懸命に生きた末ならどんな結果でも受け入れるしかないと思えてこないだろうか。『夏の終り』で知子が受け入れた結末も、きっとそんな決心ゆえだったのだ。

「原因がない悲劇」って、言葉にするとちょっと絶望的である。でも『夏の終り』を読むと、そんな世の不条理を、自然と受け入れることができる気がするのだ。

初の書籍化!

チェコ好き(和田 真里奈) さんの連載が書籍化されました!
『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか -女の人生をナナメ上から見つめるブックガイド-』は、書き下ろしも収録されて読み応えたっぷり。なんだかちょっともやっとする…そんなときのヒントがきっとあるはすです。