なかなか明けない梅雨に不安を抱きつつも、涼しさを楽しんでいた先日までとはうってかわって急激に訪れた夏。室内と屋外の温度差が激しく体調を崩しやすい季節ですが、お元気でしょうか?
今回はどちらのお店について綴ろうか、と考えていたところ、6/9に阿佐ヶ谷ロフトAで開催した『純喫茶マスター大集会』にご出演下さった中でまだ語っていない純喫茶があることに気づきました(大好きなお店なので、もちろん他の媒体で記述したことは何度かあります)。
ということで、今回は「クロックムッシュの発祥」として知られるのと同じくらい、マスターのキャラクターにも注目していただきたい「目黒ドゥー」についてお話します。
美しい珈琲に惚れ込み、ドゥーの二代目として数十年
場所は、JR山手線目黒駅東口から徒歩数分。賑わう駅前を逸れて落ち着いた小道を入っていくと、左側に穏やかな橙色の灯りが視界に入ります。階段を上がり、扉を開けるとそこはまるで屋根裏部屋のような空間が広がっているのです。
「いらっしゃい」
赤いテーブルカウンターの向こう側には、包み込むような笑みで出迎えて下さる、二代目の嵯峨さん。
その昔、珈琲が飲めず必ず砂糖やミルクを入れて味わっていた嵯峨さんは、銀座にあった喫茶店でのアルバイトを経てドゥーにたどり着き、その透き通った珈琲の美しさの虜になります。
「企業に勤めていたけれど組織が苦手で、いつかは自分の店を持ちたかった」という夢が叶ってから数十年。今では、見惚れるような珈琲を提供しては訪れる人たちを笑顔にしているのです。
珈琲のほかの看板メニューといえば、クロックムッシュ。
「発祥かどうかは定かでないけれど、先代がパリに遊びに行った時に友人に作ってもらった味が忘れられなくて、再現したそうだよ」と教えて下さいました。
バターがたっぷり塗られたパンとハム、チーズ。シンプルな具材にも関わらず、一口食べたらうっとりと目を閉じてしまうような美味しさは、「シンプルな具材だからこそ材料には良いものを。美味しいものはお金がかかるよ(笑)」という納得のいく理由。
美しいクロックムッシュを際立たせるお皿にも並みならぬこだわりがあって、今では販売されていないノリタケのものを大切に使用しているそうです。
訪れて素敵だなと思うお店たちが大切にしていることを知りたくて、【純喫茶マスター大集会】で皆さんに尋ねると、日常の生活でも活かすことのできそうなお答えがいくつも返ってきました。
中でも会場の笑いを誘ったのは、穏やかそうに見える嵯峨さんの「仲の良いやつをいじる」という回答。決して意地悪なことではなく、信頼している人たちが周囲にいるからこそ、日々フラットにお店を営めるのでしょう。そのメリハリや自分なりの気持ちの抜きどころをきちんと分かっているというところを見習いたくなるのでした。
最後の一口を食べ終わってしまうのが惜しいクロックムッシュ、サイフォンで淹れられる香り高い珈琲、純喫茶のメニューとしては珍しいスープやグラタンなどの軽食……ドゥーの魅力は様々ですが、こちらではぜひカウンター席に腰掛けて、嵯峨さんとのおしゃべりを楽しんでみてはいかがでしょうか?
Text/難波里奈
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