しばらくの間、お休みしておりましたが、まもなく発売となる新刊『純喫茶、あの味』の完成とともに戻ってまいりました。再び、純喫茶での琥珀色の時間を共有していただけましたら幸いです。よろしくお願いします。
今回は、3冊目となる『純喫茶、あの味』のことを少しお話させていただこうと思います。
この本を作りたいと思ったきっかけについては拙書「はじめに」で触れていますが、それ以外の場所でお伝えするのはこちらが初めてです。
唐突な話になりますが、私が純喫茶の魅力に気づき、夢中になったのはまだ大学生の時でした。当時は、お金はあまりないものの今に比べると時間はたっぷりとありました。やるべきことをきちんとこなしてさえいれば、好きな時間にどこへでも行けるという自由。しかし、社会人になって、さらに人によっては結婚、子育てなど自分の時間がどんどん少なくなることは共通項だと思います。それでも私はあまり変わらずのらりくらりと気ままに暮らし、現在でも業務時間を過ぎればふらりと純喫茶へ足を運ぶ生活をしておりますが、そうはいかない人たちが多数いらっしゃるのも承知の上です。
ツイッターやブログ、書籍等で純喫茶の魅力をお伝えすることに対して共感して下さる方が増えていくにつれ、その共感は現在遠方で暮らしているゆえの思い出の場所へのノスタルジーだったり、小さいお子さんがいるため煙草の匂いのするところへは安易に行けないという母親の優しさだったりとそれぞれの理由があることを知るようになりました。
と同時に、純喫茶についてメディアから取材される時、「純喫茶ごはん」というテーマにとても関心が集まっていることも感じました。当たり前のように気軽に食べていた純喫茶の食事は、誰かが恋い焦がれたメニューであり、誰かの思い出のメニューでもありました。いつまでも誰かがレシピを引き継いでいってくれる有名店とは違い、個人経営の純喫茶は(他の飲食店も同様だと思います)店主が閉店を決めてしまえば二度と食べられなくなってしまうメニューなのです。その重大さに気が付いてからは、毎回の食事を今まで以上に有難く味わい、記録として残したいと思うようになりました。
出来ることならレシピも教えて頂き、すぐには足を運べない人たちにもせめて少しでも純喫茶にいる気分を楽しんでもらえたなら…。そんな思いが募り、今回の本が完成したのです。お手頃な価格であたたかく美味しいごはんが食べられる幸せ。誰かが自分のために作ってくれる食事。そこでしか食べられないあの味。そんな風に新刊に込めた思いを、これからの連載でも綴っていけたら、と思います。皆さま、今後とも「純喫茶の美味しいもの」にお付き合い頂けましたら幸いです。
Text/難波里奈
難波さんの新刊『純喫茶、あの味』に興味がある方はこちらから!
※2016年7月7日に「SOLO」で掲載しました