好きなものがアイデンティティーをつくる
私が落ち込んでいるときに、Syrup16gのサブスクリプションが解禁になった。なんというタイミングなんだろう。もちろんCDはすべて持っているのだけれど、実家に置いたままで、本人たちが活動休止中ということもあり、なんとなく遠ざかっていた。
久しぶりに聴いた彼らの音楽は、曲や歌詞が単純に好きということもあるけれど、やっぱり自分にとって精神安定剤のような存在だということに気づく。
人生で一番辛かった中学生・高校生の頃、私を救ったのは間違いなくSyrup16gとインターネットだった。家はずっと居心地が悪かったし、学校もつまらなかった。誰でも仲良くできたけれど、何も面白くなかった。だから辛いときや悲しいときは、Syrup16gをいつも聴いていたし、好きなことを話せる人を何人も画面の中で見つけることができた。
今になって考えてみると、好きなものをたくさん見つけることができたから、私は今まで生きてこれたんだと思う。誰かと一緒にいなくても不安に思わずひとりで行動できるのも、人に期待や不満を持ったりしないのも、大体同じ理由だ。
好きなものをたくさん作るということは、自分のアイデンティティーを確立することにもつながる。優しいとか、几帳面とか、真面目とか、性格面の評価は人によって揺らぎがある。人のどんなところをいいと思うのか、よくないと思うのかはわからない。自分の意志とは無関係なところで判断されてしまう。 けれど、自分が何を好きなのかは、自分の気持ち次第で、絶対に揺るがない。私は、初対面の人に自己紹介をする際、必ず自分の趣味についての話をする。それと同じで、自分の好きなものを他人に話すことは、自分自身を理解してもらうことにつながっていくのだと思う。
幸運にも、音楽や小説、漫画、映画、お酒……他にもたくさん好きなものがある。好きなものに触れているときの私の感情は、いつだって前向きだ。たとえ、悲しくて辛い記憶を呼び起こす作品に触れたとしても、私は自分のなかにある色々な感情を呼び起こすことができる。
好きなものに囲まれていること、自分という人間性の断片を少しでも周囲に理解してもらうこと、前向きでい続けること。何かを好きでい続けると、時間の経過とともに自分の正しさや誇り、自信につながる。
私は、たぶん人よりも好きなものが多い。好奇心も旺盛だし、おそらく行動力もある方だ。それも運がよかっただけで、たまたまだ。
好きなものを自分で見つけることができたから、私は自分のなかに、きちんと正しさを持って生きていられるのだと思う。
Text/あたそ
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