本当に時間や人が解決してくれるのか

 大学生の頃に友達に紹介されたのか、それともたまたま同じ飲み会にいたことがきっかけだったのか。どうして仲良くなったのかはあまり覚えていない。でも、はじめて会ったときからなんとなく距離も近くて、なんとなく私に気に入られる話の仕方をするような人だった。

 私は、当時も自分から「この人と仲良くなりたいな」とも思わないし、飲みとか遊びには誘えないタイプだった。好きでも嫌いでもないし、予定も空いていたから、いつも誘われるがまま新宿で飲み歩いていた。
だから、私にとってはただの、普通の友達だった。特別に好きとか、もっと近づいてみたいとか、そういう気持ちすら起こらなかった。もちろん、気を持たせるような発言だって、行動だってしていない。私たちが触れ合ったのは、このとき限りだった。

 なんで、私だったんだろう。なんで、何年もずっと好きでいてくれたんだろう。私が何かしてあげたことなんて、一度もなかったのに。

 なんとなく好意には気が付いていて、それが恋愛感情だって、うっすらと知っていた。だから、私は気が付かないふりをして、その好意をうまく利用していただけなのかもしれない。自分の気持ちなんてどうにもならないけれど、私は残酷なことをしてしまったんだ。今になって、ふとそんなことを思う。

 それから疎遠になってしまった。これも、あまり覚えていない。なんとなく誘ってくれなくなって、「そりゃあ、そうだよね」と思っている間に時間だけが経って、彼女が結婚をしてしまったんだっけ。
ずっと「結婚して、子どもが欲しい」「専業主婦になって、家でお菓子作りやお裁縫をしながら、子どもを育てたい」と言っていたから、きっと夢や目標みたいなものに一歩近づいたのだと思う。
旦那さんもいい人で、子どもはまだいないけれど一軒家を建てて、大きな庭でたまにバーベキューをしているんだって。夫婦仲や旦那さんの家族との仲も良好で、「理想の夫婦」と、羨ましがられることもあるらしい。

 何かきっかけがない限り会うことはないんだろうけど、彼女は私のことを思い出したりする夜があるのだろうか。誰にも言っていないのだろうし、今後言うこともないだろう。気がついていたのは、きっと私だけだ。

 どうにもならない気持ちは、いったいどこへ行くんだろう。本当に時間や周りの人が解決してくれるんだろうか。彼女のFacebookの投稿を見ながら、温かな手のひらが私の頬に触れたことを思い出している。

Text/あたそ

次回は<「女の武器は若さだけ」なんてことない。フジロックで遊ぶ “いい大人たち”に出会って>です。
あたそさんにとっては毎年恒例の、フジロックフェスティバル。YouTubeのライブ配信を観た人もいるかもしれません。「いい大人なんだから」なんて無粋なことを言う人が一人もいない空間は、女性にとっても大事な場でした。

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