夜の闇と疲れで陥落していき…

ディズニーでの一日は時計の針に魔法がかかっているため、一瞬で夜である。パークは夜になると驚くほど暗い。無数の美しいライトが光り輝いているはずなのに、ふと夜空を見上げると難なくオリオン座を見つけられるほど暗いのである。全てのアトラクションの待ち列、全てのレストランのイートインスペース、というかもうパーク内の全場所は、恋人の顔が見えるか見えないかの絶妙なライティングに包まれる。そして、全ての人間を平等に包み込む疲労感。この二つが重なり合ったとき、人はどうなると思う? タガが外れる。今日が始まって早10時間。10時間も一緒にいるのに、その間一度もハグしたりキスしたりできていない恋人たち。「ここはディズニーだ」「周りに人がたくさんいる」「ここは公共の場所だ」そう言い聞かせることで自分を律してきた恋人たちは、夜の闇と疲れに抱かれて次々と陥落していった。

アトラクションの待ち列には、団子、団子、団子。全ての恋人たちが、思い思いのハグで一つになっている。私はこの景色、マジで数千回は見た。子供の頃から絶対に見る、ディズニー夜の風物詩である。特に激しいのがファンタジーランド。閉園が近づくと乗りたくなるアトラクションランキング1位はピーターパンですが(当社比)あれの待ち列は異常に狭い。大人が縦一列にしか並べない細い通路を何往復かするわけだが、列が進むにつれて、恋人たちの融解率は上がる。いざ船に乗り込むときは一つになってんじゃねーの? ってくらい、ぎゅうぎゅうに寄り添うのだ。同じようにビッグサンダーマウンテンの待ち列もめちゃくちゃ溶けやすい。ガジェットのゴーコースターも…とかって言い始めると要するに全部なんだけど。

ディズニーは恋人たちのタガを外す

私は友達たちと、溶け合うカップルを見つめ続けた。ふと、制服姿のカップルを見て、そりゃそうだよなと思った。大人たちはパークを出たあと、同じ部屋に帰ることができるけれど、高校生はそうも行かない。ここを出たら、別々の我が家に帰らなければいけないのだ。こんっな……朝からずっと一緒にいて……十二時間おあずけされて……家帰んのきちーよな!! もっとここにいたいけど、でも二人っきりになりたいよな! したいこと! 色々あるよな! 私は、高校生たちの壁になりたかった。お姉さんたち四人で、君たちを囲む壁になるからさ。うちら結構背高いし。もちろん外向きに立つよ。覗いたりしないよ。だからその間に思う存分キスでもしてくれよ。誰も冷やかさないから。

そこまで思って友達に目を向けると、同じようにカップルを見つめていた友達は「入ってるね」と言った。バカじゃねーのと思いながら、ちょっと泣くくらい笑った。タガが外れているのは恋人たちだけじゃない。我々も同じだ。31歳にもなって「入ってる」で大ウケはちょっとヤバい。疲れは人間のタガを平等にぶっ壊す。そして、そういう時にしか生まれない特殊な楽しさとか思い出ってものが、この世界には確かにある。ただ街でお茶するとか、ちょっと飲みに行くだけでは決して外れないタガが、パークでは外れる。それだけ疲れるのだ、ディズニーは。めっちゃ歩くし。めっちゃはしゃぐし。大人になってから、遊びでヘトヘトになれることってあんまりない。タガを外す装置としても、ディズニーってすごいんだなって、私は新たな視点で感動して、去年よりもっとディズニーランドが好きになった。若き恋人たちよ、闇に紛れてどんどんイチャイチャしな。いつでもうちらが壁になるよ。

Text/長井短