「とるに足らないこと」が人生に効く?中年の危機に私たちができること『男はなぜ孤独死するのか』

30代半ばになって突如推しカプに目覚め、二次創作ガチ勢のディープオタクになってしまった私。しかし、だからこそ初めて東京ビッグサイトや東京流通センターで開催される同人誌即売会に足を踏み入れたときは、10〜20代を非オタとして過ごしてきた者の新鮮な驚きがあった。

驚いたことの1つを紹介すると、女性向け同人誌即売会の「差し入れ文化」がある。100〜300円のお煎餅だの飴だの入浴剤だのに自分のSNSのアカウント名をシールで貼り、推し作家さんや相互フォロワーさんと交換するのだ。

最初の頃は、中高生ならいざ知らず、アラサーやアラフォー(アラフィフもいる)など大の大人が集まる空間で、こんなちまちましたやり取りをすることに何の意味があるんだろう? と思っていた。しかし、郷に入っては郷に従え。「そういうものだからそうなのだ」と割り切って200円くらいのお煎餅を毎回20枚くらい用意して交換することを数回繰り返すうちに、「なるほど!!!」と私はこの文化の意味を完璧に理解した。

この差し入れ文化、女性向け同人誌即売会ではすっかり根付いているが、男性向け同人誌即売会ではあまり活発に行われている印象がない。男と女を区切って単純化できるものでもないけれど、今回読んだトーマス・ジョイナー著『男はなぜ孤独死するのか 男たちの成功の代償』に絡めて、このことを少し語らせてほしい。

トーマス・ジョイナー著/宮家あゆみ訳/晶文社

ちまちましたやり取りが好きな女性たち

本書はタイトルのとおり、「なぜ男性は中年になると孤独感が強まり、自殺や孤独死に至ってしまう人が多いのか」という問題について書いている。ちなみに、著者は父親を自殺で亡くしているそうだ。

「男性の孤独死」というとどうしても独身男性の話だと思ってしまいがちだけど、本書は「結婚は男性を守る盾にはなるが、妻と非常に親密な関係を保っていても、男の健康を守るには十分でない場合がある(p.110)」と書く。

スウェーデンの中年男性を対象にした研究によると、1人の人と親密な関係を保つよりも、複数の友人関係を築くほうが心臓発作などを予防できる効果があるそうだ。そのため、独身男性はもちろんだが、既婚男性へも「妻に圧倒的に依存したつながりはよくない」と説いている。もちろん、女性にとっても関係ない話ではない。

話を戻すと、同人誌即売会で、2000円のギフトを激推し作家2人に渡すよりも200円のお煎餅を20人の相互フォロワーにばら撒くほうがむしろ効果的だ、と私が直感的に思ったのはおそらくこのあたりの感覚である。数百円レベルだとそこまで商品の良し悪しがないので経済力が可視化されにくかったり、(アラフォーが多いとはいえ)10代の女の子も輪に入りやすかったり、さまざまなメリットがある。現実社会での地位や影響力を捨てて、「ここでは私もあなたも推しカプに狂っているただの共同体のいちメンバーですよ」という感覚を強められるのだ。ちまちましたやり取りに意味がないのではなく、ちまちましたやり取りだからこそ意味があったのである!