SNSを見ると「みんな金があるなあ」と驚愕する。お金がなくても幸せなのか

このコラムを読んだ知人らに「こいつ、終わってんな」と思われるリスクを承知で書くのだけど、X(Twitter)やInstagramやnoteを見ながら、年々「み、み、みんな、金があるなあ〜!!」と驚愕する機会が私は増えている。家を買ったという誰かの投稿を見ては「金があるなあ」と思い、「子供が生まれた」と見ては「金があるなあ」と思い、「結婚式を挙げた」と見ては「金があるなあ」と思ってしまうのである。これがたとえば、高級外車や高級時計などの写真で、「俺は金があるぜ」というアピールが明白な投稿であれば「あ、そう」で済ませられるのだが(金がある自慢ではなく純粋に車や時計が好きな人がいたらごめん)、たぶん金がある自慢ではない素の(?)おしゃれ暮らし投稿や幸せご報告投稿に「金があるなあ」という感想を真っ先に抱いてしまうのは、我ながらちょっとどうかと思う。

では、そんな私はよっぽど生活に困窮しているのかといえば、そうでもない。ここに私のリアルな年収はちょっと書けないが、まあ、首都圏在住の36歳ってこんなもんだよねという額が私の年収である。それなのに、最近の私は、自分以外の人間がみんな金持ちに見えるという奇妙な現象にハマって抜け出せない。みんなそんな大金をどこに隠し持っているの? 実は実家が太いの? わかった! 私は独身だけど、首都圏在住の多くの人は二馬力だからみんなお金持ちなのかな? それとも案外貯金を溶かしているのかな? ていうか私が海外旅行で金を使いすぎているのか?

なーんてことは、もちろん誰にも聞けない。どんなに親しくても聞けない。みんなそれぞれ事情があるだろうし、水面下ではそう生優しくない話があることも、冷静に考えればわかる。が、X(Twitter)やInstagramやnoteを見ているときはだいたいそれほど頭が働いていないので、今日も誰かの投稿を見ては「うーん! お金持ち!」と感想を抱く私なのである。

みんな一度は経験する「会社を辞める」こと

そんな日々の中で最近読んだのが、稲垣えみ子さんの『魂の退社:会社を辞めるということ。』だ。50歳、夫なし、子なしという身分で、大学卒業以来28年間勤めていた朝日新聞社を辞め、無職(というかフリーランス)になった著者によるエッセイである。

率直な感想を言うと、私のまわり(30代後半・首都圏在住・IT業界)で「会社を辞める」ことを一度も経験していない人はなかなかいない。フリーランスや無職期間を挟みながら二度、あるいは三度の転職を繰り返す中で「会社」という後ろ盾をなくし、住民税や保険料の高さにびびったり、書類や手続きの煩雑さにイライラした経験をみんな何かしら持っているはずだ。もちろん、もっと視野を広くすれば私の世代でも「新卒で入った会社でずっと働いている」という人もいるにはいるが、それはいろいろ考えた上での選択の結果であって、「一度会社に入ったら定年までそこで働くんだ」という前提でいる人はもうほとんど絶滅危惧種だと思う。

なので、我々より上の世代の人が「会社を辞める」ことで新鮮な驚きを得ている様子はむしろちょっと眩しいというか、大企業でずっと働くってこんな感じなんだ、みたいな気づきを得られる。50代以上の人がどういう価値観の中で働いてきたのかを知りたい人は、本書を手に取ってみるといいと思う。