友達になりたい女性が社内不倫。相手に勝手なイメージを抱いているかもしれない

X(旧Twitter)、Threads、Blueskyと、今年に入ってからさまざまなSNSが盛り上がったりざわついたりと不安定だ。本当はSNSが嫌いだけど副業ライター・ブロガーという属性上完全にストップはできないので仕方なくやっている&本業もメディア系なので仕事でもなんだかんだ使わざるを得ない私としては、本音を言うと「このままぜんぶ滅びてくれたらラッキー☆」と思っているが、はたしてどうだろうか。SNSが嫌いなのにわざわざ個人の発信を副業とし、本業もメディア系なの、向いてないのでは……? と思うこともないではないが、私の向き不向きはまた別の機会に考えるとして、話を先に進めたい。

なぜこんなにSNSが嫌いなのかというと、「他人の近況なんて別に知りたくないし、自分の近況も知られたくない」みたいな気持ちが強く、それはなぜかというと、究極的に言えば私がすごく嫉妬深いせいだと思われる。旅行に行ったと聞けば嫉妬し(自分も行ってるくせに!)、仕事のあとに飲みに行ったと聞けば嫉妬し、旦那さんに晩ご飯を作ってもらったと聞けば嫉妬し、はてはハーゲンダッツの新作が美味しいと聞いただけで嫉妬している気がする。自分でも馬鹿じゃないのか? と思うが、それを誰にぶつけるでもなく「SNSを見ない」という方法で解決しており、こうしてコラムに愚痴を書くだけでリアルの人間関係では特にトラブルを起こしてはいないのだから、大目に見てもらいたい。友人知人には私とは反対にSNSをずっと見続けてしまうという「ツイ廃」で悩んでいる人もけっこうおり、本当に、他人との距離感のちょうどよさって人それぞれだなと思う。

と、全然関係ない話をしてしまったようだけど、今回語らせてもらいたいのは、今村夏子さんの『むらさきのスカートの女』。芥川賞を受賞している本作は、近所にいつもむらさきのスカートを穿いている女がいる、という文章から始まるちょっと不思議な小説だ。

信頼できない語り手。なぜ赤の他人にそんなに詳しい? 

本作の主人公は、タイトルにもなっている「むらさきのスカートの女」……と、言いたいところだが、主人公はいわゆる「信頼できない語り手」で、その正体は物語の後半になって初めて判明する。序盤の主人公はとにかく、近所に住んでいるむらさきのスカートの女をじっと観察している、赤の他人だ。自称「黄色いカーディガンの女」と名乗る主人公は、むらさきのスカートの女が住んでいる公園近くのボロアパートを把握していたり、仕事がなく無職であることを知っていたりと、赤の他人にしてはやけに彼女に詳しい。主人公は求人情報誌にマルをつけ、むらさきのスカートの女がいつも座っている公園のベンチに置いておき、彼女が自分と同じ職場の就職面接を受けるよう誘導する。石けん工場も落ち、肉まん工場も落ちたむらさきのスカートの女は、無職期間の最長記録を更新したのち、ようやく主人公の狙い通りの職場の面接を受ける。

読者は途中で、主人公の様子がちょっとおかしいことに気づくだろう。この語り手、他人であるむらさきのスカートの女に詳しすぎないか!? 「むらさきのスカートの女と友達になりたい」と主人公は言う。しかし、誘導が成功してせっかく自分と同じ職場で女が働くようになっても、主人公は彼女に一切声をかけないのだ。

むらさきのスカートの女はやがて、職場で所長の男性と不倫をするようになる。むらさきのスカートの女は男嫌いなのではないかという主人公の予測は、このあたりからどんどん外れていってしまう。