道に迷ったとき、感受性が開く

40年間穴を掘り続けることはないとしても、4月に行った4年ぶりの海外旅行では地下約100mの岩塩坑を見学したし、旅先で地下通路ツアーなどがあるとだいたい参加してしまうので、私もまたちょっとした「地下」好きだと思う。本書はそんな、暗闇と怪しげな雰囲気が大好きな人におすすめの本だ。ツアーに参加している程度じゃ経験することはないだろうけど、著者が地下探検中に地図を見間違い、方向感覚を失って道に迷うところなどは鳥肌ものの恐怖である。水も食料も限られている中、地下で道に迷うことは地上で迷うのとはわけが違う。

ただ、「暗い夜には光を求めて瞳孔が開くように、私たちは道に迷ったとき、世界に大きく感受性を開く(p.179)」というのはなんだかわかる気がする。国内ではなく海外旅行ばっかり好きなのはどうして? とたまに人に聞かれるのだけれど、私の答えは「海外のほうが怖いから」だ。ここで乗るバスを間違えると下手したら死んじゃうかも……などと想像することで、毛穴がぶわっと広がり感受性が(そのときだけ)鋭敏になる。その状態になるのが好きなのだ。

優しい夫(妻)や年収や仕事におけるやりがいや充実感を幸せと結びつけるのは間違いではないし、繰り返すように私自身にもそういう感性は普通にある。ただ、この世界はもっと広い。東西南北だけではなく、足元にも世界は広がっている。今、私が、あなたが座って/立っている場所の下はどうなっているんだろうと考えるとちょっとだけ足が竦む。が、この震えるような感覚もまた、1つの「幸せ」かもしれないと本書を読むと思うのだ。

Text/チェコ好き(和田真里奈)