諦められないということを諦める

ここまで読んでもらった人の中には、「別に日常的に何かを書かないといけないわけじゃないし、書けない悩みとかは特にないな~」と、感じた人もいるだろう。しかし本書を最後まで読んでみると、これってけっこう人生のあらゆるところで言えることかもしれないなと私は思った。

私たちは常に、仕事でも家庭でも恋愛でも容姿でもその他なんでも、「もっとよくなりたい」と思いながら生きている。この「もっとよくなりたい」には天井がなく、1つ階段を上がればまた次のステップが現れるだけだ。

どこかで「もっとよくなりたい」を諦めて、あるいはどこかに到達して、今のまま潔く生きていかなければ……と私は長年思っていたのだが、本書の最後で、千葉雅也さんは「諦められないということを諦める」ことについて語る。

「あるがままに生きる」とは、「あるがままには生きられない」という考えを受け入れることでもある──

もう修行みたいな話だが、でも、書くことも、その他の人生の悩みも、そうなのだと思う。

というわけで、たとえ書く効率が1→2にしかならないとしても「もっとよくなりたい」を求めて私は引き続きでかいモニター導入を検討するが、『ライティングの哲学』は、書くことはもちろん出口のない終わりなき悩みに陥っている人におすすめできる本だ。生きることって、もう全般的に修行のようである。

Text/チェコ好き(和田真里奈)