想像していた人生と違っても、気に入ることが大切
さて、相談にお答えする前に、知らない人も多いと思いますのでわたしの経歴についてお話しさせてください。
わたしは新卒で関西のドラッグストアに就職しました。
大学は卒業できたものの国家試験には落ちていたので、入社して半年間は一般職として勤め、残りの半年は休職して浪人生活を送っていました。一浪の末無事に合格し、薬剤師として復職しましたが、なかなかのブラック企業で体力的にきつくなり入社3年ほどで退職。
その後、特にやることもなく暇を持て余していたときに、たまたま声を掛けてもらって文章を書く仕事をするように。
エッセイやコラムの執筆と並行して、フレンチレストランでホールのアルバイトを開始。その後、北海道への移住を機に退職しています。
北海道で新たに暮らし始めて半年ほど経ってから、サポートの仕事をはじめました。難病を抱えている女性の家に行って、庭の木を切ったり、棚をつくったり、障子を張り替えたり、一緒に喫茶店でおしゃべりをしたり……説明が非常に難しいのですが、何でも屋に近いのかな、と思います。
またこれとも並行して調剤薬局の薬剤師として1年ほど働いていましたが、昨年の緊急入院のどさくさに紛れて退職し、数か月前からは病院の薬剤師として働いています。
現在のわたしの働き方としては、文筆業、謎のサポート業務、病院薬剤師の三足のわらじです。
ここまで読んでいただいたらお気づきかと思いますが、ドラッグストア・調剤薬局・病院と薬学部出身者の就職先ベスト3を網羅しているとはいえ、一つのところに長く勤めているわけではなないですし、ブランクもありますから薬剤師歴は穴ぼこだらけ。要するに薬剤師としてのキャリアはほぼ皆無です。
もともとは「新卒で入った会社でガンガン出世してガンガン稼いで成り上がってやるぜ!」と意気込んでいたのですが……気づけば想像していた人生とは全く別のものになっていました。
そりゃあ新卒で入った薬局で早々に管理職になった同期や、病院で一生懸命勉強してがん専門薬剤師を目指している同期の話を聞くと、とても立派だと尊敬しています。
でも、大金持ちではないにしろ一人で暮らしていけるだけのお金は稼げていて、毎日楽しく生活できているので、「これはこれでアリだな~」とわたしは今の働き方をとても気に入っていますし、自分に合っているとも思います。
「もっとこうすればいいのに!」は無視していい
薬剤師の人たちは「絶対に薬剤師として働き続けなくちゃ!」と思い込んでいる人が多い印象です。本来、そんな縛りはないはずなんですけどね。
せっかく苦労して国家試験に受かったんだから……という気持ちの表れなのでしょうが、そこに囚われて苦しんでいる人を見ると「いや! なんのための資格だよ!」と思います。
中には「薬剤師として多くの人の命を救いたい」「医療従事者の一員として貢献したい」という向上心を持っている人ももちろんいるでしょう。その考えはとても立派ですし、そういった信念のもとで医療に従事している方々のお陰で医療現場は成り立っていて、救われる命が多いのも事実です。
わたしもそうですが、「とりあえず資格が欲しかったから」「安定しているし」と軽い気持ちで薬学部に進学した人も少なくないはず。それもひとつの人生の選択ですから、薬剤師免許に雁字搦めにされず、もっと人生の保険やお守りとして活用してもいいのではないでしょうか。
他の業種に比べて、薬剤師しかり医療従事者や国家資格を持っている人は、転職や復職がしやすいと思います。全国どこでだって働くことができますし、たとえば病気や出産でブランクがあったとしても、仕事が全くないなんてことはまずありえません。
職場でものすごーく嫌な目に遭ったとしても、「ここを辞めてしまったら仕事がないし……」と不安を抱えたまま働くのと、「こんなところいつだって辞めてやるからな!」と思えているのとでは、心の余裕や安定はかなり違うはず。
だからこそ、薬剤師免許は「絶対に使い続けなくちゃいけないもの」ではなくて「好きなように使っていいもの」という認識でいていいと思います。
あくまでもわたしの意見ですが、一度全く異なった業種に就いてみてはいかがでしょうか。
もしかしたら、新しく始めたこれまでと全く違う仕事がものすごく楽しくて、自分に向いてると気づくかもしれません。逆に「あっ、やっぱりわたしは薬剤師として働きたいな」と再認識をしたのなら、また薬剤師の仕事に戻ればいいのです。
薬剤師として復職することを考えたときに、「ブランクがあるのは……」と不安に思うかもしれませんが、そんなことは気にしなくて大丈夫。わたしは薬剤師としてブランクがありながら、ドラッグストア→調剤薬局→病院と渡り歩いていて、もちろん仕事内容は全く異なりますし大変さがないわけではありませんが、それなりにやれています。
医療現場は教育の仕組みが整っているところが多いですし、産休や育休の制度がしっかりしていてブランクがある人の受け入れに慣れています。
そもそも薬剤師は技術を求められているのではなく、知識がものを言う職業です。同じ調剤薬局でも、門前のクリニックの診療科によって必要とされる知識はまるで違い、どこへ行ったって勉強し直すことには変わりありませんからね。
これはどの仕事でも言えることです。
畑違いの仕事をしていると、たまに「せっかく薬剤師免許を持っているのに! つかわないなんてもったいないよ!」と言ってくる人が現れます。
あなたが新しく薬剤師以外の仕事を始めた場合、そういったお節介さんに何を言われても全く気にする必要はありません。
「なんでこうしないの!」「もっとこうすればいいのに!」と言う人に限ってあなたの人生の責任を取ってくれることは絶対にないので、無視して大丈夫。
わたしは私大の薬学部を一度留年し、さらに国試浪人をして半年間予備校に通い、8年もかけて薬剤師になったくせにフラフラしているため、よく「親が泣いてるぞ」と怒られることがありますが、そのたびに「わたしもそう思います」と返しています。
親は「大学に通わせて資格を取らせた時点で親の義務は終わってるから。あとは自分の人生なんだから好きに生きなさい」って言ってくれているんですけどね。
大事なのは、自分自身が健やかに生きることです。
どうかそれだけは心に留めておいてほしいと思います。