全ての経験は、必ず今後に活きる
自分自身、様々な職種を経験したからこそ気づいたのですが、薬剤師はどうしても閉塞的な環境になりやすい職種です。少人数で働くことが多いですし、患者さんとコミュニケーションを取れても説明と傾聴がほとんどを占めます。全くの別業種の人と意見交換ができることはあまりないのではないでしょうか。
また、組織としてアップデートされるのが遅く、価値観が古いまま取り残されている人が多い印象です。そのせいで一辺倒のものの見え方しかできない人をたくさん見てきました。
別業種の人と常日頃からコミュニケーションを取るようになって、社会の仕組みやお金がどう動いているのか、薬剤師の社会的立場、患者さんの背景についてなど、今まで見えていなかったものが見えるようになり、考える力が養われます。
そういった意味でも、たとえ一時的かつ短時間だとしても、全く違う仕事を経験してみることをおすすめしたいです。
全ての経験は、必ず今後に活きます。
わたしの場合、先にお話しした謎のサポート仕事では資格必須ではないにしろ、薬剤師ということで雇い主から信頼を得られているなと実感していますし、文筆業としては薬に関するコラムを書かせてもらったこともありました。今回、あなたがわたしに相談文を送ってくださったのもそのうちの一つです。
また、ドラッグストアで働いていたことで調剤薬局で患者さんから「このサプリってどうなの?」と質問がきたときに重宝されましたし、この連載で誰かのお悩みを聞く機会が多いため、患者さんからの悩みをじっくり聞いて想像する力が養われました。
ドラッグストア時代の販売で培った体力といい意味での図々しさは、フリーランスになった今存分に活用しています。
薬剤師としての経験は別に仕事のときに、別の仕事での経験は薬剤師として働くときに、全て活きています。
あなたのこれまでの経験も、これからするであろう経験も、どんなものであれ決して無駄になることはありません。
今までのつらい経験で嫌な思いをしたぶん、きっと他人に対して理不尽な怒りを出すことはないでしょうし、自分と同じ目に遭った人に対してやさしい言葉をかけてあげられるようになっているのではないでしょうか。
声を掛けられたら全力で挑戦する
さて、ではどういう仕事をしたらいいのか、という質問に対する答えですが、なんだっていいと思います。
「今まではネイル禁止だったから、次はネイルOKで楽しめるところがいいな」とか、「人としゃべるのはしんどいから、あまり人と関わらない業務にしよう」とか、「お酒が好きだから、ちょっとスナックで働くのに挑戦しちゃおうかな」とか。
参考になるかわかりませんが、わたしは物理的に無理でなければ、声を掛けられたら全力で乗っかってみようと決めています。
特に、これまで一度も経験したことのない仕事に関しては、絶対に断りません。
文章を書く仕事も、フレンチレストランのホールも、謎のサポート仕事も、たまたま声を掛けてもらって「今まで一度もやったことないし、なんか楽しそうだからやってみようかな」といった軽い気持ちで引き受けました。調剤薬局も病院も、知り合いに誘われて「まあ、一回くらい経験しておくのもアリか」程度です。
こういった働き方をしているぶん、気軽に声を掛けてもらえるのかもしれませんが、基本的にはそんなに難しく考えてません。「ちょっと興味あるかも」「なんか楽しそう」くらいの前向きな気持ちがあれば十分ではないでしょうか。
いろいろ挑戦してみると、自分の向き不向きがわかってきます。
「自分にはこれしかない」と決めつけてしまうのはもったいない。
せっかくだからいろんなことに挑戦してみたほうが絶対に楽しいはず。
わたしも病院で働いてみて「自分に病院は向いてないな!」と気づきました。実際に経験してみないとわからなかったもんね! 気づけてラッキー! と思っていますよ。
薬剤師ではありませんが、わたしの友達にもこれまでと全く違う業種に転職した人がいます。新卒から10年間アパレルで勤めていたけれど「もう接客したくない! 立ちっぱなしは嫌だ!」と退職して職業訓練校に通い、もともとの得意分野を活かしてWEBデザイナーになった人。営業の仕事をしていたけれど、休日に学校に通ってかねてからの憧れだったコピーライターになった人。
資格の有無にかかわらず、何事もやってやれないことはありませんし、選択肢は無限にあります。
自分は何が好きで何に興味があるのか、過去に何が嫌だったのかを思い出してそれを避けられる職業はどれなのか、まずはそれを考えてみることから始めてみてはいかがでしょうか。
それだけでも、きっとワクワクしてくるはずですよ。
最後に、もし今働くのがこわい状態なら、カウンセリングに通うこともおすすめしたいです。
医療従事者だからご存知かもしれませんが、カウンセリングは決して敷居の高いものではありませんからね。
ゆっくりで大丈夫。少しずつ健やかな生活を取り戻していきましょう。
Text/ものすごい愛
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