「誰もが恋愛や結婚をしたいと思っている」とされる社会で、そうではない私が生きるには

「お持ち帰りだ」と冷やかされて

by Adi Constantin

今週は忘年会続きだった。そういえば、私の会社はもともと飲み会が多かったんだよな。毎日のように会社の誰かしらと酒を飲みながら文句を言ったり、お互いの仕事の話をし合っていた。油断していたかもしれないし、警戒心も足りなかったかもしれない。けれど、去年の今頃は外で誰かとお酒を飲むなんてあり得なかったから、普通の年末年始が戻ってきたようでうれしくもあった。胃は重いし、少し太った気もする。常に気を遣いながらの飲み会だから精神的な疲労もないわけではない。それでも、やっぱり目には見えない何かに怯えて暮らし、半ば強制的に引きこもらざるを得ないよりはよっぽどいい。できれば、会社の飲み会は減って欲しいが……。

一次会が終わったら帰ろうと思っていた。ここのところ残業続きだったし、何より家で鳥が待っている。店から出ると二次会に向かうメンバーにつかまりそうになって、いやいや~とか適当にごまかして、同じく一次会で帰ろうとする先輩と一緒にタクシーを捕まえる。2人で乗り込もうとするとき、「お持ち帰りだ」と何度も冷やかされ、へらへら苦笑いをしてその場を納めようとする自分がものすごく嫌だった。誰が言ったかはわからない。けれど、たぶんその先輩と私が絶対にそういった関係性にないこと、今後もそうなる可能性が極めて低いことは知っているはず。二次会に向かうメンバーはほとんどが男性だったから、場の雰囲気とか空気感とかもあったのかもしれない。その周りにいた人も笑っていたのかもしれない。いまだに女性とみなされている自分にも、この手の冗談を言っていい相手だと認識されていることにも、ものすごく腹が立った。

会社のほぼ全員が参加した忘年会後のこの出来事を、小規模の飲み会でも少し話してみたら「言われているうちが華だよ」と言われて終わってしまった。問題視はされなかったし、「そういうもの」として扱われる。私の不満や怒りはあらぬ方向へ受け流され、なかったこととして処理される。

ああ、そうだった。会社の人とお酒を飲む機会がほぼなくなっていたからすっかり忘れていたが、男女がいれば必ず恋愛に発展すると思われるような世界や、男性社員から女性として見なされることをプラスにとらえなければならない世界に私は足を突っ込んでいたのだ。男女の友情は絶対にありえないし、全員が結婚や恋愛をしたいと思っていて、セクハラやパワハラ発言は仲のいい証拠。少し大げさな言い方かもしれないが、私が今生きているのはそういう世界だ。

先日、兵庫県尼崎市保健所のバイセクシュアルの職員に対し、「不快に思う市民がいる」と指導をし、依願退職にいたった話があった。どこか遠い国のニュースを見る気持ちで記事を眺めていたのだが、私のすぐそばでも同様のことが起きている。何かを基準にして、普通以外であることや、普通だと見なされないことが。私はいつも、この手の社会の「普通」に疲弊し、色んなものが削り取られていたのだよな。もうすっかり慣れてしまっただけで。仕事だけをしていればよかった時期がとても長かったから、忘れていた。