「気まぐれ」って何?

「気まぐれ」。それは、今夜こそ会えると恋人のいる部屋の窓の下までやってきて、梯子に足をかけようとするまさにその瞬間に、ふと気が変わって一人で砂漠に旅に出てしまうような、そういう類のものらしい。父・重一郎は、理性に理性で対抗するのではなく、理性に美しさや想像力で対抗するのだ。

これは私にとってはすごく説得力のある展開で、「生涯にわたって結婚や出産を経験しない女性」が勇気をもらうために必要なのは、理性によるストレートなエンパワメント本だけではなく、女性にも結婚にも出産にもあまり関係ない、ちょっと不思議でただ美しいだけの本だったりすることがあると思っている。私自身も、かえってそういう本のほうにエンパワメントされることがけっこうあるし、今ハマりにハマって私を救いまくってくれている二次創作も、根本的にはそっちに分類されるのだろう。

『美しい星』には、「理性よりも想像力のほうが狂気から遠い時代が来たのだ(p.293)」というセリフがある。この小説が生まれたのは1960年代だけど、2021年の今もなお、そんな時代が続いているような気がする。私たちを救うのはお金でも家族でも恋人でもなく、もしかしたら日常の中にふと現れる「気まぐれ」かもしれない。『美しい星』を読んで、私はなんだかそんなことを考えた。

Text/チェコ好き(和田真里奈)

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『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか -女の人生をナナメ上から見つめるブックガイド-』は、書き下ろしも収録されて読み応えたっぷり。なんだかちょっともやっとする…そんなときのヒントがきっとあるはずです。

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