男の浮気はしょうがない? 恋愛を遺伝子で説明する異色ドラマ
みんな、どう? 最近、本能にまかせた恋愛してる?
理性のブレーキが効きすぎて、生殖本能が満たせていない福田です。
今週も往年の恋愛ドラマをあえて見直し、勝手に深読みしていきましょう。
今回のテーマは、竹内結子と内野聖陽が動物行動学の研究者を演じ、月9ドラマとしては異例のラストが賛否両論を巻き起こした『不機嫌なジーン』(2005年、フジテレビ)です。
このドラマ、途中でいきなり生物学の豆知識がはさまれたり、CGやアニメ、テロップを多用したり、毎話の最後に「今週のおさらい」が入ったり……と、なかなか意欲的な試みの目立つ作品でした。
ところが、こうした斬新な演出や、途中で何度も年月が経つストーリー展開、なにより最終回で主役のふたりが結局結ばれない、という結末に戸惑いや不満を覚えた視聴者が多かったらしく、平均視聴率は14.3%といまいちヒットはしませんでした。
しかし、「恋愛って、遺伝子に組み込まれた、ただの生殖欲求と何が違うの?」という新しい視点を持ち込んだこの作品は、とても示唆に富んだ、興味深い恋愛ドラマに仕上がっています。
大学の修士課程で動物行動学を専攻している蒼井仁子(竹内結子)は、テントウムシを研究対象とする無類の生き物好き。
ロンドン留学中に凄腕の有能な学者・南原孝史(内野聖陽)と付き合いますが、女たらしで浮気性だったため1年で破局。
それ以来、「オスはたくさんのメスと交尾して、自分の遺伝子を残すためなら、どんなウソでも平気でつく」という考えに至り、男性不信になってしまいます。
そこへ、南原が大学の客員教授として帰国。再び彼女に猛烈なアプローチをかけるところから、物語は動き始めます。
人間は遺伝子や本能を捨て、ムダに思い悩むことを選んだ!?
このドラマのテーマは、第7話のふたりの以下のやりとりに集約されているでしょう。
仁子「生き物には愛情なんかないってあなたはバカにするけれど、やっぱり遺伝子では説明できない何かがある!」
南原「そのことに関しては、科学者としてイエスとは言えない」
仁子「いつか証明してみせるから。私がきっと」
オスはよりたくさんのメスと、メスはより強いオスと交尾して、後世に子孫を残す。
本来、生き物にとって男女の営みとはただそれだけのこと。
しかし、人間は“恋する気持ち”や“愛情”といったあいまいな感情を手にしたせいで、遺伝子や本能だけでは割り切れない悩みを抱えるようになってしまったわけです。
ロンドン留学時代、浮気性の南原と付き合うことに悩んでいた仁子は、ノートにこんなメモを残しています。
『今日はもっと冷静になるために、彼の欠点を書きだしてみよう。
1.自分勝手
2.ナルシスト
3.自信過剰
4.いつもブツブツ文句ばっか
5.寂しがり屋 すぐに泣く。それも私の前でだけ
ああ、なんてことだ。書いているうちにすごいことに気付いてしまった。
私は彼の欠点が大嫌いなのだ。と同時に愛しいのだ。
私はなんてアホなんだ』(第4話より)
欠点ばかりでどうしようもない男なのに、なぜか嫌いになれない。
種として優秀なオスを求めるのがメスの本能なら、こんな男に惹かれてしまうのはおかしいですよね。
まさに“遺伝子では説明できない”、典型的な恋愛あるあるです。
南原「好きだ好きだでどうこうできるなら、俺だってこんなに悩んだりしない!
いいか、人生とはままならない。
進化の過程で鳥が翼を持つことを選び、アリクイがアリを食うことを選んだように、人間も悩むことを選んだのだ。
悩み、考えることで進化した哀れな動物、それが人間だ。
100%満ちたりてる人間なんて1人もいない。
“超幸せ”とか言ってる花嫁ですら、自分のカメラ写りに悩んでる。
俺たちは死ぬまでこの呪縛から解放されることはない」 (第5話より)
人間が、いかに遺伝子や本能とは無関係の、本来は必要のないムダなことで悩んでいるか。
とりわけ恋愛においてそれが顕著だということを、このドラマは明るみにしています。