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  • 2016.05.19

「誰がダメって言ったの?」紛れもなく10代だったvol.1 /さえりさん

ツイッターで大人気のさえりさんの連載です。10代の頃に誰もが通る、キラキラした恋や、思い込みによる失敗。さえりさんによる架空のストーリーで、純粋な頃の自分を思い出してみませんか?過去の自分が、今悩んでいることへの答えを教えてくれることもあります。

紛れもなく10代だった
©Alena Getman

 夕方5時、校舎入り口近くの階段の上から3番目にりかは腰掛けていた。

 そこは、昼休みに先輩が座っていたところから、ひとつ隣にずれた場所で、あの人と二人でここに座れたらどんなにいいだろうと、腰掛けているのだった。

 先輩を初めて見たのは、1年生の夏。
登校中、キーホルダーをカチャカチャと鳴らしながら前を歩く男の先輩を、なんともなしに見つめていたことがあった。
すると、その人が不意に振り返ったのだった。
たったそれだけ。恋に落ちるのに理由はなかった。

「りか、お待たせ」
「あ、うん。ぜんぜんへいき」

 立ち上がり、先ほどまでの回想をすべて脳内の箱にしまう。
続きはまた明日考えようと、りかはひとり心に誓う。

「みて。ゲットした」と、ゆうこが一枚の写真を取り出したのは、いつもの交差点に差し掛かった時だった。

 横目でその写真を目にした途端、りかのローファーは、パタンと音を立てて止まった。

 赤いTシャツを着た少し鋭い目つきの白川先輩が、そこには写り込んでいた。
りかは無言でその写真を受け取り、食い入るように見つめる。

制服じゃない。
制服じゃない。
制服じゃない!!!!

 りかが見たことのない、白川先輩。
写真は、よく観察するうちにどうやら修学旅行の一コマだということがわかった。

「うるさい叫びすぎ」とゲラゲラ笑うゆうこを差し置いて、どこがどのようにかっこいいのか、指の細さから目つきのエロさ、そして鎖骨の角度がいかに美しいかを、りかは延々と彼女に説き続けた。

 そうして高揚したりかに、ゆうこはポツリとこう言うのだった。

「もう、告っちゃえばいいのに」

 踏切前で、ゆうことりかが立ち止まると、後ろから自転車にのったおばさんがスーパーの袋をカゴに入れて隣に止まった。
二人は無言でおばさんを見つめ、りかは静かに口を開いた。

「告白なんか、できない」
「なんで?」
「だって、たぶん相手にされない。この前、先輩たちの集団とすれちがったあとさ、先輩たちのひそひそ声が聞こえて、白川先輩が『無いわ〜』って言ってた」
「え? それ、りかのこと?」
「わかんないけど……。とにかく無理だと思う」

 ゆうこが「ハァ?」と、呆れ笑いをすると同時に、電車がサッと走り抜けた。
踏切が開き、視界が開ける。

「そんなのわかんないじゃん」

 おばさんがまた自転車を踏み出す。
目の前の坂を軽快に下っていく。赤いサンダルが妙に目に焼きついた。

「りか? 聞いてる?」
「うん。でも無理だって。私なんか、絶対無理」
「りかさぁ、まだ告白してもないのに、なんの決めつけなの?」
「……」
「とにかく。私は、言わなきゃ意味ないと思う。そんだけ好きってこと、ちゃんと分かってもらわないと、なんにもはじまんないじゃん」

 ふたりは静かにローファーを鳴らして歩き、ゆうこは「またあしたね」と手を振って帰った。

 ぼんやりと空を眺め、指先を見つめ、ローファーの汚れを見つめる。
「なんの決めつけなの?」呆れたゆうこの声が脳内でこだまする。
思い出したように先輩の写真をカバンから取り出す。
じっと見つめてみたり、少し離して見たり。
先輩の姿を指先でなんともなしになぞっていたとき、後ろから「あれ?」と声がかかった。

 まさか、と息が止まる。

 白川先輩だった。

 身体中の血液が頭に集まり、顔がかあっと赤くなる。
血液の全部が、好きという気持ちに変わって、身体中を駆け巡る。

 時間は止まり、息だけが早くなる。

「あれ、おれの写真?」と先輩が尋ねてきたとき、りかの言葉は、思考を超えて先に飛び出ていった。

「あの、好きです」

「……え?」

 言ってしまった。
気づいたのは、言葉に出した後だった。
気づいたころには、足が震え始めていた。
さっき前髪割れてたけど、いまも割れてたらどうしよう。
急いで前髪を触る。
その瞬間、止めていたピンがとれる。
ばか、さっき前髪割れるからってピンで留めたじゃん。
ぐしゃぐしゃになったかも、走り去りたい、でも、体が動かない。
言わなきゃよかった。
困ってるかもしれない。
もう顔、あげれない。

 ぎゅぅと目を閉じ、「わすれてください」と言おうとしたときだった。

「……おれも」

 震えた先輩の声が、耳に届いた。
聞いたことのない、声だった。
でも、たしかに、自分に向けられた先輩の声。

 目だけをきょろきょろとさせながらりかは「へ?」と声を漏らす。
先輩は、続けて言う。

「や、おれもずっと好きで」
「え……」
「夕方、階段に座ってるの、いつも見てた」

 りかのローファーが、一歩前にパタンと音を立てる。
先輩の鞄のキーホルダーがカチャリと音を立てる。
夕暮れの赤が、空にほのかに広がっていく。

========

 好きな人に好きと伝える。
そんな単純なことが、わたしにはいつまでたっても難しい。

 じつはわたしは、告白できなかった人だった。
好きな先輩がいたのに、「どうせダメだろう」と自分の中で決めつけたから。

 今になって思う。
「ダメって、誰が言ったの?」と。
相手がどう思っているかは関係なく、人は人を好きになる。
それがきっと本来の姿のはずであるし、万が一振られたって全然恥ずかしいことなんかじゃないのに、早くから自分を守りすぎた。
大人になって恋愛経験を重ねるうちに、昔よりも「どうせダメだろう」が増えていった。
社会人になってからは、傷ついている暇なんかない、とさえ思っている。
「好き」という心に素直に従えたのは、もしかしてあの時がピークではないか?
だったら、伝えてみて、実ったり、玉砕したりすればよかった。

 今でも、あの眩しい感情が自分の中だけで完結されてしまったことを、すこし悔やんでいる。
ダメかどうかは自分が決めることじゃない。
当時のわたしと、当時のわたしのような人たちへ。

Text/さえりさん

ライタープロフィール

さえりさん
ライター。何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。

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