「うるさい叫びすぎ」とゲラゲラ笑うゆうこを差し置いて、どこがどのようにかっこいいのか、指の細さから目つきのエロさ、そして鎖骨の角度がいかに美しいかを、りかは延々と彼女に説き続けた。

 そうして高揚したりかに、ゆうこはポツリとこう言うのだった。

「もう、告っちゃえばいいのに」

 踏切前で、ゆうことりかが立ち止まると、後ろから自転車にのったおばさんがスーパーの袋をカゴに入れて隣に止まった。
二人は無言でおばさんを見つめ、りかは静かに口を開いた。

「告白なんか、できない」
「なんで?」
「だって、たぶん相手にされない。この前、先輩たちの集団とすれちがったあとさ、先輩たちのひそひそ声が聞こえて、白川先輩が『無いわ〜』って言ってた」
「え? それ、りかのこと?」
「わかんないけど……。とにかく無理だと思う」

 ゆうこが「ハァ?」と、呆れ笑いをすると同時に、電車がサッと走り抜けた。
踏切が開き、視界が開ける。

「そんなのわかんないじゃん」

 おばさんがまた自転車を踏み出す。
目の前の坂を軽快に下っていく。赤いサンダルが妙に目に焼きついた。

「りか? 聞いてる?」
「うん。でも無理だって。私なんか、絶対無理」
「りかさぁ、まだ告白してもないのに、なんの決めつけなの?」
「……」
「とにかく。私は、言わなきゃ意味ないと思う。そんだけ好きってこと、ちゃんと分かってもらわないと、なんにもはじまんないじゃん」

 ふたりは静かにローファーを鳴らして歩き、ゆうこは「またあしたね」と手を振って帰った。