男らしさを諦めたおじさんには魅力がある『恋は雨上がりのように』

 少女マンガに登場するステキな王子様に胸をときめかせていたあの頃——いつか自分も恋をしたい。そんな風に思いながら、イイ男とは何か、どんなモテテクが効果的なのか、少女マンガを使ってお勉強していたという人も少なくないハズ。

 時は流れ大人になっても、少女マンガによって植え付けられた恋愛観や理想の王子様像は、そう簡単に劣化するものではありません。むしろ王子様の亡霊に取り憑かれて、リアルな恋愛がしょぼく思える人もいたり? この連載では、新旧さまざまなマンガを読みながら、少女マンガにおける王子様像について考えていきます。

第12回:自信のない王子様は、つねに徐行運転
『恋は雨上がりのように』

 『恋は雨上がりのように』は、ヒロインの女子高生「あきら」がファミレス店長の「近藤」を好きになってしまう所からはじまるラブストーリーです。
店長はバツイチ(子持ち)で、後頭部には10円ハゲがあり、くしゃみの音は「ぶえくしょい」。LINEがどういうものかすら知らないですし、お客さんにはヘコヘコ謝ってばかり。つまり、おじさんの中でも、かなりダサい&情けない部類に属しています。

 でも、あきらは店長のことが大好き。クラスメイトに「あきらのタイプってどんな人さ」と訊かれると「ちょっと寝ぐせがついてたり。たまにズボンのチャックが開いてたり。ストレスで頭に10円ハゲができてたり。大きな声でクシャミしたりする人、かな…」と答えています。
ふつうだったらJKが嫌がるようなおじさんの特徴をこそ、あきらは愛するのです(そしてライバルが少ないことを喜んでいる)。

 あきらがなさけないおじさん店長に惚れた理由。それは、かつてお客さんとしてこのファミレスを訪れたときに、彼からコーヒーをサービスしてもらったから。ただそれだけです。しかし、コーヒーの出てくるタイミングや、その時店長がかけてくれた言葉が、彼女の人生にとって非常に意味のあるものだった。

 ネタバレになるので詳細は伏せますが、あることが原因ですっかり元気をなくしていた彼女にとって、店長のさりげない優しさは、彼女を悲しみの底から引き上げてくれる、とても力強く優しいものだったのです。まあ、店長はそんなこと、知るよしもないのですが。